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【痔の手術】 東京山手メディカルセンター大腸肛門病センター(東京・新宿区)

(C)日刊ゲンダイ

 医学部を出ても、外科研修では肛門疾患を扱う機会がほとんどない。そのため肛門疾患治療を学ぶには、症例が多く集まる施設に勤務して経験を積むことになる。同センターは、その肛門疾患手術を年間2000症例以上行うハイボリュームセンターで、多くの大腸肛門病の名医を輩出してきた。

 現在、統括するのは開設から3代目に当たる佐原力三郎センター長。同センターの歴史をこう話す。

「当初は外科の中の肛門疾患を特殊に扱う部門として1960年に発足し、65年に外科から分離。75年には、大腸から肛門までのすべての疾患の外科治療を行う現体制になりました。初代センター長の隅越幸男先生は国内の肛門疾患治療のパイオニア的存在で、72年に発表した痔瘻の分類『隅越分類』は今でも広く使用されています」

 同センターは伝統的にも肛門疾患、とりわけ“痔(痔核=いぼ痔、裂肛=切れ痔、痔瘻=肛門に膿のトンネルができた状態)”に関しては、他院で治し切れない患者や重症化した患者が数多く紹介されてくる。手術件数を見ても痔瘻の占める割合の多さが際立つ。

「紹介されてくる患者さんの疾患の中で難しい症例は、やはり痔瘻。痔核で紹介されてくる多くは、抗血栓薬を飲んでいたり、腰椎麻酔ができないなど、他の病院では対応できないケースです」

 痔の手術にはさまざまな術式があり、どれも一長一短。

 その選択基準は担当医の考えに委ねられ、患者のニーズに合わせてテーラーメード的に治療方法を提示する。

 たとえば「痛みを減らしたい」「仕事を休めない」「出血を少なくしたい」などの患者の要望と根治性のバランスを考える。佐原センター長は、特に痔瘻の手術では「低侵襲を一番に心がけ、いかに根治性を上げるか」という考えが基本姿勢だ。

「これまでは、痔瘻のもとを取るような術式が行われてきましたが、果たしてそれでいいのか。痔瘻のもとを取るとなると、肛門の中までいじります。そこに傷ができると、術後の排便時の痛みが強い。私がメーンにやっている痔瘻の治療は肛門の中はいじりません。肛門の外からアプローチする術式なので、術後の痛みがあまり出ません」

 その術式は、佐原センター長が08年に開発した「肛門上皮下瘻管切離内括約筋切開術(SIFTIS法)」。痔瘻は肛門の中から外側に瘻管という孔が開く。SIFTIS法は、その瘻管を細いハサミを使って外側から切るだけ。手術自体は10分ほどで、1週間以内には退院できる。

「海外には、“肛門の外から瘻管を縛る”似たような考えの術式もありますが、施設によって再発率が5%や20%と高い。SIFTIS法の再発率は3・2%です」

 日本大腸肛門病学会の肛門部門で中心的な役割を果たす同センターは年3回、大腸肛門病懇談会を開催している。全国から毎回100人前後の熱心な専門医が集まり、意見交換、議論を交わす場になっている。開催数は1964年から数えて昨年末で189回になるという。

 東京・新宿区にある旧社会保険中央総合病院の大腸肛門科。
◆スタッフ数=9人(専門医8人)
◆初診患者数(2013年度)=4686人(紹介患者約53%)
◆肛門疾患手術件数(13年)=2423件(痔核957件、痔瘻904件、裂肛85件、その他477件)