有名病院 この診療科のイチ押し治療

【網膜硝子体手術】 杏林大学医学部付属病院・アイセンター(東京・三鷹市)

(提供写真)

 眼科は疾患分野が細分化されていて、医師が専門とする分野により治療実績にバラつきがあることが多い。同院眼科は、より幅広い眼疾患を網羅するため、1999年から「杏林アイセンター(眼科総合診療センター)」として診療を開始。現在、大学病院の眼科教室では珍しく、4人の教授を置く態勢を敷いている。

 特に力を入れているのは眼科医7人(うち教授2人)が担当する網膜硝子体疾患だ。硝子体手術は、年間1000症例を超え、全国トップクラスの治療実績を誇る。井上真教授が言う。

「眼球の中身はゲル状の透明な物質で満たされた硝子体で、その底の部分に光を感じる視細胞が並ぶ網膜があります。硝子体手術は、硝子体を取り除き、病気で傷んだ網膜を眼内から修復します。主に、網膜剥離、糖尿病網膜症、網膜の中心にあり最も重要な黄斑部の疾患(黄斑上膜や黄斑円孔)などの治療で実施されます」

 具体的には、黒目の縁の白目の部分の3カ所に極細の管を通す。そこから眼球内を照らすライト、組織を切断する硝子体カッターやハサミ、眼圧を保つための液体を注入する管を挿入して、手術顕微鏡で眼底をのぞきながら操作する。

「以前の手術器具は20ゲージ(0・9ミリ径)でしたが、いまは25ゲージ(0・5ミリ径)を使う小切開硝子体手術がメーンになっています。傷が小さく縫合の必要がないので回復が早い。より安全で侵襲が少なく質の高い手術ができます。症例によっては、さらに細い27ゲージ(0・4ミリ径)の手術も始めています」

 網膜剥離や糖尿病網膜症では、初期や軽症であれば薬やレーザー光凝固術で治すこともできる。

 しかし、同センターに進行した硝子体手術の対象患者が多く集まるのは、地域の中核的医療センターとして設備を充実させているからだ。基本的に受診者は救急患者を除き、紹介患者に限っている。

「最新の硝子体手術機器(コンステレーション)を3台、外来手術室の3部屋に硝子体手術用顕微鏡を備えています。重症の網膜硝子体疾患で、全身麻酔での手術になる場合や夜間の緊急手術は、病院の中央手術室を使います。また、条件の合う希望者には日帰り手術(2013年=114件)も行っています」

 単に手術数が多いだけでなく、手術で網膜が元の状態に戻る網膜復位率も高い。難治性や続発性を除いた通常の網膜剥離の場合(06~11年に1196眼)では、初回復位率は94・9%で最終復位率は99・1%という。

「ただし、手術で網膜剥離自体は治っても、視細胞の傷害は戻らないので、視力が0・4(読書視力)以下に低下したままの患者さんも出てきます。そのケースは、ロービジョン外来でフォローアップを行っているのも当科の大きな特色です。専門の研修を受けた視能訓練士が、残った視力でどう生活したらいいかサポートしています」

 同センターが13年に行った眼科手術は、トータルで3007件。そのうち39%を、硝子体手術が占めている。

 東京・多摩地区で唯一の医科大学(全1153床、うち眼科病床41床)
◆スタッフ数=常勤眼科医24人、視能訓練士20人
◆眼科初診患者数(2013年)=4979人
◆硝子体手術件数(13年)=1158件(網膜剥離415件、糖尿病網膜症221件、黄斑部疾患274件)