有名病院 この診療科のイチ押し治療

【甲状腺疾患】 伊藤病院(東京・表参道)

(提供写真)

 全国から外来患者が1日1000人以上、土曜は約1500人が来院する国内屈指の甲状腺疾患専門病院として知られる。初代が1937年に開業。その孫の伊藤公一院長で3代目になる。

「甲状腺疾患の患者さんの9割は女性で、40歳以上の女性の10人に1人が罹患していると推定されています。しかし、全国的にみても甲状腺専門の病院や診療所は非常に少なく、専門医が不在の地域もあるのが現状です。当院の患者さんの半数は、かかりつけ医や人間ドックなどからの紹介患者さんです」(伊藤院長)

 甲状腺は、のど仏の下にチョウが羽を広げるような形で位置する内分泌臓器。甲状腺ホルモンを分泌して全身の新陳代謝をつかさどっている。甲状腺ホルモンの働きが異常をきたす病気にはバセドー病や橋本病があり、甲状腺の形に異常をきたす病気には良性腫瘍やがんがある。

 甲状腺ホルモン異常の症状は、動悸、汗をかく、イライラ、気分が落ち込む、もの忘れ、食欲があるのにやせるなど。特有症状がなく、心臓病や更年期障害、高血圧や高血糖、うつ病などと思い込んでいる人が多いという。

「当院の特色のひとつは、臨床検査の正確さと迅速さです。患者さんがご都合の良いときに来院できるよう予約制にせず、当日検査結果が出る体制にしています。薬の分量も検査結果で異なります。受け付けされたらまず検査し、診察の時点には治療方針も薬の量も決まります」

 検査の主役となる臨床検査技師37人は同規模の施設では異例の多さで、来院当日に検査結果を出す迅速検査に貢献している。手術は主に、甲状腺がん、副甲状腺の機能亢進症、バセドー病、大きな良性腫瘍が対象となり、年間約2000件をこなしている。

「日本には国の定める厳重な管理が必要となるアイソトープ病床が非常に不足していますが、7床あるのも当院の大きな特徴です。当院だけでも国内のバセドー病に対するアイソトープ治療の半数近くを行っています」

 アイソトープ治療とは、放射線治療の一種。甲状腺の細胞は食物中のヨウ素を取り込んで甲状腺ホルモンを合成している。それを応用して、放射線ヨウ素(アイソトープ)が入ったカプセルを飲み、甲状腺を体の内部から内照射する療法だ。

「アイソトープ治療は、重症のバセドー病や遠隔転移のある甲状腺がんが対象になります。内服必要量が多い場合には入院が必要となり、当院では年間約1500件中、3分の1が入院治療です」

 バセドー病では、治療後2~6カ月で甲状腺ホルモンの分泌が減少するので、薬剤よりも短期間で効果が得られるという。
「専門病院なので自己完結型医療を提供できるのが当院の強みです。スタッフも甲状腺に興味をもつ意欲的な人材が多く集まってくるので、医師不足とは無縁です。世界で最も甲状腺疾患の症例を診ている病院だと自負しています」

 10年前に名古屋市に開業した分院「大須診療所」でも、外来アイソトープ治療を行っている。

 創業78年の甲状腺疾患専門の個人病院、名古屋分院あり
◆ベッド数=60床(うちアイソトープ病床7床)
◆医師数=常勤25人(すべて甲状腺専門医)、非常勤約70人
◆年間初診患者数(2013年)=2万2657人
◆治療実績(2013年)=アイソトープ治療1570件、手術件数1912件