医者も知らない医学の新常識

「不妊治療」は「乳がん」を増やす?

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 少子化の一方で、不妊に悩むカップルが増えています。

 日本産科婦人科学会の調査によれば、薬を使用して卵巣を刺激する、体外受精で生まれたお子さんは、2012年に3万8000人近くに上ります。

 この年の出生数は103万人余りですから、約27人に1人は体外受精で生まれたことになります。

 問題は、体外受精という不妊治療の安全性ですが、実際にはよく分かっていません。不妊治療は自費診療ですし、ご両親は不妊治療でお子さんが生まれたという事実をどちらかといえば隠そうとするからです。

 不妊治療、特に体外受精では「排卵誘発剤」と呼ばれる薬を使用します。これは結果として、女性ホルモンの上昇を伴います。そのため「女性ホルモンとの関連の深い乳がんが増える可能性が否定できない」との考え方があります。

 この問題を解決するため、米国で12万人以上の不妊治療を受けた女性の調査が行われ、2014年の海外の医学誌にその結果が掲載されています。

 それによると、現在では使用されていないような、高用量の排卵誘発剤を使用した場合に、1・7~2倍程度の乳がんの増加が認められました。ただし、治療全体としては、そうした増加は認められませんでした。

 つまり、通常行われている不妊治療で、乳がんが増えるという心配はなさそうです。

 日本でもこうした調査が必要だと思いますが、不妊治療で生まれたお子さんとお母さんの健康状態をチェックするような仕組みがない以上、それは難しいことなのかも知れません。

石原藤樹

石原藤樹

信州大学医学部医学会大学院卒。同大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科研修を経て、1998年より「六号通り診療所」所長を務めた。日本プライマリ・ケア学会会員。日本医師会認定産業医・同認定スポーツ医。糖尿病協会療養指導医。