薬に頼らないこころの健康法Q&A

ストレスチェック制度が経営危機を招く!?

井原裕 独協医科大学越谷病院こころの診療科教授(C)日刊ゲンダイ

 ストレスチェック制度の目的は、あくまで健康増進にあります。そのためには、ストレスにさらされている人にそのことに気づいていただいて、医師による面接指導につなげ、生活習慣をめぐる指導やストレス対処に関する助言を得てもらうことが大切です。つまり、ここでの医師の仕事は、「治療」ではなく「予防」です。

 ところが、この制度が本来の目的を逸脱して、いつのまにか「うつ病の早期発見・早期治療」の制度と堕してしまうリスクがあります。多くの企業にとって、現状でもうつ病による長期休職は脅威でしょう。そこへもって、ストレスチェック制度の開始によって潜在的なメンタルヘルス需要が爆発的に増大する可能性があるのです。

 ②の段階で面接を行う医師の多くは企業の産業医ですが、精神医学の専門家ではありません。医師とはいえ、専門家ではない人がストレス度を判断する面接を行うことになります。しかも、やってくる人は、すでに①の段階で高ストレス者であることが判明している人ばかりです。医師にしてみれば、「後日責任を取らされたくない」という意識が働きます。そうなると、ストライクゾーンを広くして「疑わしきは『専門医の治療が必要』と見なす」方針を採ってしまいます。

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井原裕

井原裕

東北大学医学部卒。自治医科大学大学院博士課程修了。ケンブリッジ大学大学院博士号取得。順天堂大学医学部准教授を経て、08年より現職。専門は精神療法学、精神病理学、司法精神医学など。「生活習慣病としてのうつ病」「思春期の精神科面接ライブ こころの診療室から」「うつの8割に薬は無意味」など著書多数。