「貧乏ゆすり」は悪癖にあらず 長時間座位の死亡リスク減少

周りは迷惑がるかも知れないが…
周りは迷惑がるかも知れないが…(C)日刊ゲンダイ

 気づかないうちに膝をカタカタ小刻みに揺らしている「貧乏ゆすり」。イライラしている、落ち着きがないといった印象を周囲に与える“悪いクセ”とされている。しかし、そんな悪癖が本人の命を救うかもしれないというからビックリだ。

 今年9月、英国で行われた「貧乏ゆすりの程度と全死亡リスクの関連」を解析した研究が「米国予防医学誌オンライン版」に報告された。同国の37~78歳の女性1万2778人を前向き観察研究したものだ。

 それによると、1日の平均座位時間が「5時間未満」のグループに比べ、「7時間以上、かつ貧乏ゆすりをほとんどしない」グループは、死亡リスクが30%も上昇した。

 一方、「5~6時間」か「7時間以上でも貧乏ゆすりをかなりする」グループの死亡リスクは上昇なし。さらに、「5~6時間、かつ貧乏ゆすりをかなりする」グループは、死亡リスクが37%も減少していた。

 研究者は「貧乏ゆすりが、長い座位時間に関連する全死亡リスクを減少させる可能性が示唆された」と結論付けている。

 実際、座っている時間が長い人は、糖尿病や心血管疾患の発症リスクを高め、死亡リスクが上昇することが知られている。糖尿病専門医の辛浩基氏(しんクリニック院長)はこう説明する。

「座っている姿勢では、脳などから足の筋肉に送られる電気信号がストップして代謝機能が下がります。それが長時間になれば、肥満につながります。また、長時間座っていることによって動かさない足の筋肉が脂肪化していき、血糖値を下げるインスリンをきちんと利用できなくなってしまう。そうしたことから、2型糖尿病の発症リスクがアップするのです。座っている時間が長い人は、糖尿病発症リスクが91%上昇するという報告もあります」

■ウオーキングと同じ効果

 他にも、長時間座っているとホルモンの分泌に悪影響を及ぼして中性脂肪を燃焼する効率が低下したり、善玉コレステロールを減少させる。血管の機能が低下して血液の循環が悪化し、心臓に負担がかかるなどの悪影響があることもわかっている。米国の研究では、座っている時間が長い人は、あまり座らない人に比べ、心臓発作や脳卒中などの心血管疾患による死亡リスクが18%、がんの発症リスクが13%上昇すると報告されている。

 貧乏ゆすりには、そうしたさまざまなリスクを減少させる可能性があるのだ。

「足を小刻みに揺らす貧乏ゆすりは、足の筋肉を収縮・弛緩させ、血流を促す行動ともいえます。座ったまま足を動かさないことによって生じる悪影響を解消する働きがあることも考えられます」(辛院長)

 貧乏ゆすりの“効果”については、他にも数多く報告されている。合計2時間半の貧乏ゆすりをしていると、200キロカロリーを消費するという研究がある。これは、世界保健機関(WHO)が肥満予防のために推奨している「1日当たりで余計に消費すべき量」に相当するという。

 中京大学体育学部の湯浅景元教授は、実験によって「貧乏ゆすりを3分間続けると、ふくらはぎの温度が1度上昇する」ことを確かめた。これは、ウオーキングを20分続けるのと同じ効果で、冷え性の対策にもなるという。

 さまざまな病気のリスクを下げるためには、「1時間座り続けたら、いったん立ち上がるだけでも効果がある」(辛院長)というから、意識して貧乏ゆすりをする必要はない。しかし、貧乏ゆすりのクセがある人は、健康のことを考えたら、無理にやめなくてもいいのだ。

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