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【漏斗胸の手術】 湘南鎌倉総合病院・胸壁外科(神奈川県鎌倉市)

湘南鎌倉総合病院胸壁外科の飯田浩司部長
湘南鎌倉総合病院胸壁外科の飯田浩司部長(提供写真)

 胸がくぼんだ状態になる「漏斗胸」や、逆に胸骨の一部が突出する「鳩胸」。先天性の胸郭変形疾患で、胸を囲む肋骨や肋軟骨が長くなりすぎ、ゆがみが生じて起こると考えられている。発症頻度は、漏斗胸で約1000人に1人、鳩胸は漏斗胸の1~3%程度とされる。同科は、その胸郭の変形を手術で治す専門科。飯田浩司部長(写真)はこう言う。

「漏斗胸や鳩胸は寿命に影響する病気ではありません。しかし、変形が目立ってくる小学生以降になると外見が精神的な負担になります。親にも相談できず悩んでいるお子さんもいます」

 鳩胸は精神的な問題だけで身体症状はないが、漏斗胸は心臓や肺が胸壁に圧迫されるので成長に伴って身体症状が表れてくる。15歳以上の60%以上に胸痛、動悸、息切れ、疲れやすさなどの自覚症状があるという。

 ただし、胸郭変形疾患の診察に精通した医師は少なく、患者の精神的な悩みや漏斗胸の不定愁訴のような身体症状が理解されない場合がある。

「検査で大きな異常がないために、『症状は気のせい、見た目の問題なので様子を見ましょう』と事実上放置されていることがある。また、逆に心電図異常などから運動を禁じられてしまうケースもあります」

 漏斗胸の治療は国内外ともに両脇を切開し、金属プレートを挿入して胸骨を裏側から押し上げて固定留置する「ナス法」(1998年に米国の小児外科が発表)が主流だが、同科はその術式をとらない。

 同科が採用しているのは「胸肋挙上術」。胸の中心部を3~8センチ切開して肋軟骨の一部を切除し、引き寄せて糸で再縫合して肋骨の弾力で引っ張ることによって変形を矯正する。一貫して、この術式に徹しているのが同科の特色でもある。

「ナス法は骨を切らずに矯正する術式で、経験が少なくてもできるので一気に普及しましたが、決して低侵襲の治療とは言えません。術後の痛みが強く、3年ほど金属を留置して再手術で取り出さないといけない。その期間、激しい運動はできないし、金属がずれる合併症などがまれにあります」

 一方、胸肋挙上術は1981年に故和田壽郎・札幌医科大学名誉教授が開発し、94年以降は飯田部長が改良を重ねてきた術式だ。手術時間は小児で2時間、成人は3~4時間。翌日から食事や歩行が可能で、大きな合併症はこれまでになく、入院は平均6日。退院時にはほとんど痛み止めの必要はなく、約1カ月で登校・勤務ができ、3カ月以降は運動制限もない。

 欠点は、左右数本の肋軟骨をミリ単位で切る調整に技術を要し、相当の経験がないと難しい。それが普及していない理由だ。

「幼児から大人まで手術できますが、最も適しているのは精神的な影響が表れる前の5~7歳ごろ。悩みを抱えていた患者さんや親御さんが涙を流して喜んでくれます」

 飯田部長は、名古屋徳洲会総合病院・胸壁外科(愛知県春日井市)でも治療を行っている。

■データ
国内外73施設ある徳洲会グループの基幹病院
◆スタッフ数=手術担当医師2人(心臓血管外科専門医と呼吸器外科専門医)
◆年間初診患者数=60~70人
◆対象疾患の割合=漏斗胸約95%、鳩胸約5%
◆年間手術件数=30件強