医療数字のカラクリ

あてにならない「余命宣告」

 今回は肺がんを例に、実際の生存率を見ていきましょう。

 進行肺がんのうち、他の臓器に転移があるようなステージⅣと呼ばれる最も進行したグループの生存率を見ると、生存期間の中央値が6カ月、平均が7カ月というところでしょうか。

 半分は6カ月以内に亡くなり、半分は6カ月以上生き、その中には2年、3年と生きる人もいるが、90%の人が1年半以内に亡くなります。ただ、1年半以上生きた人の生存曲線は平坦に近くなり、“意外に死なない”といっていいかもしれません。

 しかし、5年以上生きる人は数%に満たないということも示されています。

 結局、データを忠実に読み込んでいくと、「個々の患者さんがどうなるかはわからない」ということがわかります。平均値や中央値をもってして「あなたの残された時間は○カ月です」という説明は、ほとんど意味を持ちません。平均値を聞いたところで、残された時間は平均より短いかもしれないし、かなり長いかもしれない、というだけなのです。

 上記のような状況を考慮して、臨床の現場では平均余命を平均値や中央値をもって説明するというやり方は、すでになされない方向にあります。あてにならない数字にとらわれるよりは、残された時間が限られていることを家族や医療者と共有し、その日その日をよりよく生きていくことが一番ではないでしょうか。

名郷直樹

名郷直樹

「武蔵国分寺公園クリニック」名誉院長、自治医大卒。東大薬学部非常勤講師、臨床研究適正評価教育機構理事。著書に「健康第一は間違っている」(筑摩選書)、「いずれくる死にそなえない」(生活の医療社)ほか多数。