「福島県の甲状腺がん発症率は日本の年間平均発症率よりも20~50倍高い」という衝撃的な論文が国際環境疫学会誌の2015年10月5日付に掲載されています。
ご存じのように、4年前の東日本大震災による影響で、福島第1原子力発電所で放射性物質の放出を伴う事故が発生。福島県では、その後、18歳以下の住民を対象に甲状腺がんのスクリーニング(検診)が実施されています。
論文はそのデータから得られた甲状腺がん発症率と、日本の年間平均発症率を比較したものです。この結果を見て、多くの方は原発事故による放射線で、子供の甲状腺がんが20~50倍も増えると衝撃を受けるかもしれません。
しかし、「この論文だけで明確な結論を得ることは難しい」と専門家の多くは感じていると思います。
なぜならば、スクリーニングをすればするほど、甲状腺がんが見つかるからです。
実際、甲状腺がんの検診が熱心に行われてきた韓国では、その罹患率が、それほど検診が行われていない英国の約15倍といわれており、「見つけなくても問題ない、治療の必要のない甲状腺がんを過剰に診断しているのではないか」などと指摘されています。
この論文でも、「スクリーニングによるバイアス」の存在は認めています。気になるのは「これだけの増加はバイアスだけでは説明できない」としながらも、その根拠を明確に示していないことです。
放射線が甲状腺がんのリスクファクターであることは確かです。しかし、韓国の事例で示されたように、スクリーニングを実施した地域(福島県)での発症率と、スクリーニングをしていない地域(日本の年間平均)を含む発症率の比較は、過剰診断の影響を軽視できません。
この論文では福島県南東部を基準とし、福島県内各地域での比較も行われていますが、その解析ではリスクは増加傾向にあるものの統計的に有意な差は出ていません。この論文結果は慎重に解釈せねばならないでしょう。
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