Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

【北斗晶さんのケース(2)】手術の合併症リンパ浮腫は治る

佐々木健介、北斗晶夫妻
佐々木健介、北斗晶夫妻(C)日刊ゲンダイ

 「リンパ浮腫のむくみが出ないように暮らす」

 乳がんの手術を終えた北斗晶さん(48)は、ブログでこんなことをつづっています。今年の初めごろに、右の乳頭の下に2センチのがんが見つかったそうですが、今年9月の手術時は右脇のリンパ節にも転移。がんは2・5センチに拡大し、リンパ節も含めて切除した、と記者会見で語っていました。

 その語り口から、リンパ浮腫に伴うむくみは一生の付き合いと思われたかもしれませんが、そんなことはありません。治療法次第で、リンパ浮腫は治るのです。

 血液が血管を通って全身を巡るように、リンパ液もリンパ管を通って全身を巡ります。その中でいくつかのリンパ管が集まる“ターミナル”がリンパ節。そんな拠点を切除したら、どうなるでしょうか。リンパ液が滞ってしまいます。それが、リンパ浮腫です。

 リンパ浮腫は、乳がんのほか子宮がんなどでリンパ節を切除した女性に多く発症しやすいといわれますが、膀胱がんや前立腺がん、大腸がんなどでリンパ節を切除した男性にも発症します。放射線治療の影響で起こることも。女性に限ったことではありません。

 北斗さんのように脇のリンパ節を切除すると、腕がむくむことがあり、切除した方はしていない方より太くなりやすく、細い方の腕に合わせると服が着られないので、太い方に合わせたものを着ることになったりします。どの服もブカブカで、なかなかノースリーブは着られません。温泉や海水浴など肌を露出するレジャーは気分的に難しくなります。

 リンパ浮腫は女性の生活を左右することになりますが、原因はリンパの滞りですから、“渋滞”を解消すれば治ります。それが、スーパーマイクロサージャリ―と呼ばれる形成外科手術。具体的には、“渋滞”しているリンパ管を、近くの静脈につなげてバイパスを作製。リンパ管の直径は0.3ミリで、静脈は0.8ミリ。針の太さは20分の1ミリ、糸はその半分。微小な世界の外科手術だから、スーパーマイクロサージャリーです。

 北斗さんは失った右胸をなかなか直視できず、つらかったそうで、これから抗がん剤治療が始まるまでの間に、「全摘用のブラジャーを注文」すると気丈に語っていました。

 乳房の再建はようやく保険対象になり、切除手術と同時に新しい乳房を再建することもできます。もちろん、同時再建も保険適用で、高額療養費制度を使えば、一般のサラリーマン家庭の妻なら、自己負担は8万円ほどで済みます。

 女性にとってつらい乳房を失う期間を極力減らし、経済的な負担も抑えることができるのです。女性を支える男性としても、このことは知っておいて損はありません。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。