家計簿を見れば病気がわかる

「肉好きは長寿」は本当か

(C)日刊ゲンダイ

 2年ほど前、NHKの「クローズアップ現代」で、“高齢者はもっと肉を食べるべきだ”という特集が組まれたことがあります。番組によれば、70歳以上の5人に1人がタンパク質不足による栄養失調とか。

 これをきっかけに、もっと肉を食べようという運動が、マスコミを中心に活発になりました。タンパク質が不足すると、認知症や心臓病、骨粗しょう症のリスクが高まるといわれています。また筋肉が弱って、自力で動けなくなってきます。そのため最近では「肉こそ長寿の秘訣」とまで言い切る人も現れるほどです。

 とすれば、肉の購入量が多い県ほど、平均寿命も長いのでしょうか。最長寿県と最下位県との差は、男性で3.6歳、女性で1.8歳。とくに男性の平均寿命の差は、看過できません。そこでデータを並べてみると、表のようになりました。男性の長寿上位5県と下位5県について、肉(生鮮肉)の購入量を調べたものです。

 最長寿は長野県(女性もトップ)。全国平均よりも約1.3歳長生きです。ところが1世帯当たりの肉購入量は、年間約38キロ、全国44位に甘んじているではありませんか。外食で取る分もあるので断言はできませんが、それにしても長野県民は、あまり肉を食べていないようです。タンパク質は魚でも取れますが、海のない長野では魚の消費も低調です。まさかイナゴやザザムシが、長寿の秘訣でもないでしょう。

 一方、短命トップの青森は、肉購入量では全国16位と上位につけています。北の海の幸も豊富です。実は青森は魚の消費は全国一です。県民はそれだけタンパク質を豊富に取っているはずなのに、短命というのはなぜでしょう。ちなみに青森は女性の平均寿命でも最下位です。

 その他の県を見ても、平均寿命と肉購入量のあいだには、はっきりした関係は見えてきません。「肉を食べれば病気にならず、長生きできる」というのは、どうやらちょっと単純化しすぎているようです。

 むろん、家計調査の数字は平均値に過ぎませんし、一部には正確性を疑問視する声もあります。それに人の寿命は、食事だけで決まるものでもありません。ただ、あまり肉を食べない長野県が最長寿だということは、頭の片隅に入れておいてもよさそうです。

永田宏

永田宏

筑波大理工学研究科修士課程修了。オリンパス光学工業、KDDI研究所、タケダライフサイエンスリサーチセンター客員研究員、鈴鹿医療科学大学医用工学部教授を歴任。オープンデータを利用して、医療介護政策の分析や、医療資源の分布等に関する研究、国民の消費動向からみた健康と疾病予防の解析などを行っている。「血液型 で分かるなりやすい病気なりにくい病気」など著書多数。