Q
29歳男性です。4年前に転職し、運送会社の事務職員として働いています。仕事量が能力を超えていて、このところ倦怠感が強く、仕事の集中力が低下していると感じます。営業所には所長より早く帰ってはいけない雰囲気があって、皆、残業しています。私の場合、平日は22時ごろに退社し、23時前に帰宅。就寝は常に0時を過ぎます。朝は6時前に起きないと間に合いません。月に30時間分は残業代が出ますが、それ以上は出ません。ストレスチェック制度がスタートすれば、高ストレス状態と判断されると思います。医師面接の勧奨があれば応じるつもりですが、チェックしてもらうと本当にストレスは減るのでしょうか?
A
ストレスチェック制度によって、あなたのような疲れ切った労働者が救われる可能性はあります。ただし、御社に「所長より早く帰ってはいけない雰囲気」や、「月に30時間分しか残業代が出ない」等の“文化”があるようですから、若干気がかりです。
ストレスチェック制度が始まっても、今度は「調査票に正直に書きづらい」雰囲気がおのずとできあがって、結局、制度が機能しない可能性もあります。
そもそも、今回、ストレスチェック制度が導入された背景には、2006年4月施行の改正労働安全衛生法第66条の8の「面接指導等」と呼ばれる条文が、あまり機能しなかった事情があります。この条文は、長時間労働による疲労の蓄積が認められる場合の、事業者側の安全配慮義務を記したものです。事業者は時間外労働が1カ月100時間を超えると労働者に対して医師面接を行わなければなりません。時間外労働が80時間を超えるが100時間に達していない場合は、強制ではなく、努力義務とされています。
しかし、企業によっては、30時間残業したとみなして定額の残業代を支払い、あとはカットしているところもあるでしょう。それ以上に残業した場合は、会社の建前としては労働者の自発的な労働であって、使用者の指示・命令によってなされたものとはいえないので、時間外労働とは認めないということになります。
このようなケースが多いため、実際には1カ月80ないし100時間を超える時間外労働を行っていても、会社としてはそれをカウントせず、結果として医師面接に上がってこない労働者も多数いるものと推測されます。
今回のストレスチェック制度が、そのような人の健康を守るために役立てられる可能性はあります。
しかし、そもそも、サービス残業という形での無償労働が常態化している点に問題があります。事業者には安全配慮義務、つまり労働者の健康を保持する義務があり、そのためにこそ実際の時間外労働を正確に記録すべきです。
労働者も自身の時間外労働時間を自己保健責任の一環として、タイムカードとは別個に記録に残せばいいのです。サービス残業時間中は、極論すれば“事業所の安全配慮義務の下に置かれていない”ことになりますので、労働安全衛生法の「面接指導等」を受ける権利を失うことになります。
私ども医師は労務管理の専門家ではなく、健康管理の専門家です。しかし、ストレスチェックに関わることになると、いや応なく労使の微妙な対立構造の中に置かれます。複雑な心境です。
薬に頼らないこころの健康法Q&A