有名病院 この診療科のイチ押し治療

【便失禁】指扇病院・排便機能センター(埼玉県さいたま市)

指扇病院の味村俊樹センター長
指扇病院の味村俊樹センター長(C)日刊ゲンダイ

 便が漏れて、パンツを汚してしまう「便失禁」。最も多い原因は、加齢で肛門を締める括約筋の力が弱まるケースだ。しかし、直腸がんの手術の後遺症や過敏性腸症候群、女性では出産時の括約筋の損傷などでも起こる場合がある。

 月1回以上の頻度で便失禁を起こす国内の有症率は、20~65歳で4%(約300万人)、65歳以上で7.5%(約230万人)とされる。

 しかし、恥ずかしさなどから8割以上の人が受診しないでいるのが実情だ。

 同センターは、全国でも珍しい便失禁や便秘などの排便障害を専門とする診療科。特に得意とする治療法は、肛門筋電計という検査機器を用いて括約筋が正常に働くように訓練するバイオフィードバック(以下、BF)療法だ。味村俊樹センター長(顔写真)が言う。

「便失禁には、便意を感じることなく便が漏れてしまう『漏出性便失禁』と、便意は感じるがトイレまで我慢できずに漏れる『切迫性便失禁』の2つのタイプがあります。BF療法は、切迫性便失禁の治療で行います」

“BF”とは、通常では認識が難しい生理機能を画像や音などの情報に変換し、それを基に本人の意思で制御できるようにする技法。治療やリハビリの他、スポーツのトレーニングなどでも用いられている。

 切迫性便失禁で行うのは、骨盤底筋収縮訓練だ。

「切迫性便失禁は、便を我慢することで腹筋まで力が入ってしまい、便を押し出して漏らしてしまう。それを肛門周囲の筋肉だけを収縮(締める)させるように訓練するのです」

 具体的には、肛門と腹部に電極を設置して両方の筋肉の収縮レベル(筋電図)をモニター画面に映し出す。それを見ながら、腹に力を入れないで肛門だけを締めるコツを習得していく。BF療法は外来で月1回30~45分、計5回。その間、理学療法士が指導してくれた肛門を締める収縮訓練を自宅で毎日行う。

「BF療法は便失禁だけでなく、軟便でもうまく出せず残便感で困る“排便困難型便秘”の治療にも有効です。このタイプの便秘は、排便でいきむときに肛門周囲の筋肉まで収縮させてしまうのが原因です。BF療法は便失禁とは逆の骨盤底筋弛緩訓練を行います」

 BF療法(計5回)の改善率は、便失禁、便秘ともに約70%という。

 また、同センターでは薬物療法やBF療法などの保存的治療では治らない難治性の便失禁に対する「仙骨神経刺激療法」という外科治療も行っている。細いリードの付いたバッテリー内蔵の装置をお尻に埋め込んで、電極で肛門の神経につながる仙骨神経を刺激して便失禁を改善させる。

 仙骨神経刺激療法は、昨年4月に保険適用になったばかりで、実施する施設もまだ少ない最新治療だ。便失禁の頻度が50%以上減少する治療成功率は約80%で、漏出性でも切迫性でもタイプに関係なく有効という。

「難治性でも普通に外出、旅行ができるまでに改善する人もいます。便失禁の治療法は数多くあるので、少しでも悩んでいたら受診していただきたいと思います」

 回復期リハビリ病棟、介護老人保健施設を併設する地域の急性期病院
◆スタッフ数=19人(医師1人)
◆年間初診患者数=約300人
◆バイオフィードバック療法の直近年間実施数=初回患者51人、延べ174人
◆仙骨神経刺激療法の実施数(2014年4月~)=5人