医療数字のカラクリ

「肺がん」は1年半で90%死ぬ 「乳がん」は10%以上が10年以上生きる

(提供写真)

 先週の肺がんに続き、今回は乳がんの生存曲線を見ていきましょう。前回、取り上げた転移のあるステージIVの肺がんの生存曲線に合わせて、乳がんも遠隔転移のある最も進行した段階のステージIVを取り上げましょう。

 ステージIVの肺がん患者の半分が6カ月以内で亡くなるのに対し、ステージIVの乳がん患者は3年以内で半分の患者が亡くなります。同じステージIVといっても全く異なることがわかります。また、肺がんでは1年半で90%の人が亡くなり、5年以上生きる人は数%という状況でしたが、乳がんでは10年近くまでに80~90%の人が亡くなります。つまり、10%以上の患者は10年以上生きるということです。

 さらにステージIVの乳がん患者で印象深いのは、10年を過ぎると生存曲線がほぼ平坦になることです。転移があったとしても10%近くの人は15年、20年と生きるというわけです。

 この背景には、進行がんに対する治療の進歩がありますが、それだけでは説明がつきません。進行乳がんの一部の患者は極めて進行が遅く、10~20年では生死に関係ないようなものが一定の割合であると考えなければ説明が困難です。

 転移があるような最も進んだ段階の進行がんといっても、そのがんの種類によっても、さらには個別の患者の状況においても、大きく生存率が異なることがわかります。「進行がん」「遠隔転移」という大ざっぱな分類で、必ずしも絶望することはないのです。

名郷直樹

名郷直樹

「武蔵国分寺公園クリニック」名誉院長、自治医大卒。東大薬学部非常勤講師、臨床研究適正評価教育機構理事。著書に「健康第一は間違っている」(筑摩選書)、「いずれくる死にそなえない」(生活の医療社)ほか多数。