独白 愉快な“病人”たち

棋士 先崎学 (44) 本態性高血圧

(C)日刊ゲンダイ

 うちは父が高血圧で、私もその血を継いで本態性高血圧(囲み参照)なんです。小学生の時から上が140(㎜Hg)ありました。

 おかげで、寝ざめは良くて、小学4年から米長邦雄先生のもとで住み込みで修業していましたが、早朝から掃除をし、登校という生活が苦にならなかった。

 よくお年寄りは「将棋は血圧に悪い」って言うんです。勝負に没頭して、特に負けそうになると頭に血が上る。僕も同じような状況が20代の頃にありましてね。対局に負けると、悔しくて眠れない。血が上るのを抑えるには血を抜くのがよかろうと、献血に行っていました。

 都内のホテルで過呼吸を起こして病院に運ばれたこともありました。指がしびれ、呼吸が速くなる。自分ではどうしていいかわからないので慌てました。医師は過呼吸は病気じゃないからと、そっけない対応でしたが。

 でも、息を止めればいいんです。逆のことをしているようで、本当に治まるのか不安ですが、ビニール袋を口に当て、呼吸をしていると落ち着いてくる。若い頃は体のコントロールの仕方がわからなかったんです。何回か体験し、呼吸の息苦しさ、手のしびれなど過呼吸の前兆がわかるようになって、自分で対応できるようになりました。

 もともと私は大食漢で酒飲みの才能がありましてね。脂っこいものも好きで、焼き肉ならホルモンが大好き。量も食べる。

 スパゲティの乾麺500グラムを1回で食べてしまうんです。大好きなつけ麺は値段が一緒だから、つい大盛り。ビールはやや苦手でジョッキ2杯までしか飲めませんが、酒は何でも。ウイスキーならボトル1本は空けられます。それでも体重の増減なく30歳をすぎても変わらなかったし、インフルエンザも40すぎて初めてかかったくらい体は丈夫な方ですね。

 眠れないほどまで血が頭に上ったり、過呼吸を起こしたりというのは30歳ぐらいまでで、次第に減っていきました。

 振り返ってみると、「諦め」がついたんだと思います。若い頃は最下位リーグから上がっていく過程なので、勝ち数の方が多い。それだけに、負けるとものすごく悔しい。子供の棋士なんか、感情を理性で抑えきれずよく泣きます。将棋の“勝ち負けの両極しかない厳しさ”が体の不具合を起こしていたんじゃないかと思います。

 年を重ねると、負け数も増えて1回のダメージが昔ほどではなくなってくる。いまだに頭にきますけど、同世代の羽生善治さんだって7割勝っても3割の負けはある。ある意味、諦めがついて、負けに執着するよりも「負けは仕事、勝ちは集金」と思うように思考が変わりました。ま、僕なんて勝負のストレスだけで、世の中のサラリーマンよりも人間関係とか外的ストレスはあまりないですから、恵まれていますが。

 棋士は首を下に向けて長時間座り仕事。目と頭だけしか使わないので、30代半ば頃からボクシングを始めました。週1、2回通うと、体重は変わらないけれど筋肉がついて身が締まり、寝つきも良く、酒を飲まなくても熟睡できるようになりました。そんな話を近所のプールで監視員のお姉さんに話すと、「えっ? そのお腹で?」という視線を感じましたが……。

 最近、ゴルフ仲間から痛風の話を聞くので、家では麦焼酎“いいちこ”。それから、そばダイエットに挑戦中です。まあ、根を詰めない程度にやっていけたらいいかなと思っています。

(次回はファッションデザイナーのドン小西さん)

本態性高血圧

 遺伝的要因に加え、生活習慣や運動習慣などさまざまな要因が複雑に絡み合って発症するのが本態性高血圧。病気や薬剤など原因の場合は、2次性高血圧という。

せんざき・まなぶ 1970年、青森県生まれ。10歳で故米長邦雄永世棋聖に内弟子として入門、17歳でプロ入りを果たす。2013年に通算600勝を達成、今年4月、九段に昇段。週刊現代で「吹けば飛ぶよな」を連載中。