独白 愉快な“病人”たち

コメディアン・俳優 小松政夫さん (72) 敗血症

(C)日刊ゲンダイ

 芸能界に入って50年、一度も体調不良で仕事を休んだことがないんですよ。

 そんな僕がワイドショーで大騒ぎになったのは60歳のころ。忙しい日が続きすぎてもう限界。14日間の休みをもらうことにしたんです。いざ休みになって、朝はゴルフ、夜は酒を飲みまくり、ほとんど寝ないで4日間遊びまくりました。

 そして、5日目は完全にオフ。6月にしてはいい天気で、暖かいのに朝から寒けがして、引っ張り出したストーブを抱えるようにして温まっていました。熱が41度も出ていたんです。それでかかりつけ医に電話をして、薬だけ処方してもらい、付き人に取りにいってもらいました。

 その薬を飲んだかどうか、その辺から記憶が曖昧なんですが……。付き人が運転して戻ってきた車に乗り、「仕事だ、フジテレビに行くぞ」と大汗かきながら言った。すると付き人が「今日はお休みです。僕は車を洗いにきたんです」と言う。そんなはずはない、と事務所に確認してもらうと何もなかった。

 それじゃ風呂でもと入ると……。気がついたらバスタブに倒れ込むように入っていて、顔面にシャワーがザーッと当たっていたんです。

 人を呼ぶにも声が出ない。「これは脳出血だ!」ととっさに思い、まずは助けを呼ばねばと風呂おけを握り、バスタブをカンカン叩いた。付き人がやってきて、パンツぐらいはかせてもらおうと思ったら、それより先に救急車を呼んだ。

 救急車に乗ると救急隊員と病院のやりとりがよく聞こえてね、受け入れを断られて、たらい回しにあっている。なかなか動かない救急車の中で、もしかしたらこのまま死ぬのかと思いましたよ。

 診察の結果は脳出血ではなくて、敗血症でした。血液中に大腸菌が侵入して、悪寒や高熱、記憶まで曖昧になったんです。詰めて仕事をして、その後4日間続けて寝ずに遊んだ“過労”が原因でした。

 慌てて駆け付けた女房に、「ご主人は海外旅行とか行かれました?」と医者が聞いた。

 敗血症って、性行為による感染症でも起きるので、海外で悪さをしてきたんじゃないか、と聞いたわけです。毎日家に帰っているし、後ろめたいことはないからよかったですが。

 昼に入院し、抗生物質を1日3回注射されただけで、夜には熱も下がりケロッとしたもんです。ところが翌朝、ワイドショーやスポーツ新聞にデカデカと「小松政夫、重病」なんて報道されていてビックリ。入院中は紙袋に隠しカメラを入れた人が、病室の周りをうろうろしていました。

 大事を取ってそのまま10日間ほど入院しましたが、休み明けの仕事には支障なく戻りましたよ。そうそう、退院する時に、ワイドショーのリポーターさんたちがお花をくれてね。いつもはちょっと毛嫌いしていたんだけど、花束をもらって涙が込み上げてきちゃった。

 まあ、あちらもそうやって次の取材につなげるんでしょうね。

 僕が入院したのはそれ1回きり。肉好きで外食は焼き肉、ステーキ、寿司と続いても、毎晩大酒飲んでいても、糖尿に注意するよう医者には言われるけど、この年ならまだいい方じゃないかな。でも、女房がね。飲んで帰った日は酒のニオイをさせないよう、口を開かないようにして布団に入るんだけど、翌朝、朝ごはんを食べながら「そんなに飲まなくても」とチクリと言われるのが医者より怖いんですよ。