独白 愉快な“病人”たち

講談師 一龍斎 貞水さん (74) ㊦

(C)日刊ゲンダイ

 仕事は、抗がん剤や放射線治療中も事前にスケジュール調整しただけでひとつも穴をあけなかった。入院中に中抜けして地方公演にも行った。

 留守でも個室代1泊分取られたのはもったいなかったな……。それでも、働けりゃ取り返せる。高座に上がると夢中になっちゃうから、痛みも、吐き気も、ダルさも忘れちゃう。自分の代わりがいない緊張感とやり甲斐は何より元気にさせますよ。

 だから事務所の社長に言うんです、「俺を丈夫にしたいなら仕事を取ってこい」ってね。今も講談に視覚も加えて進化させた独自の「立体怪談」というのを考案し、全国の学校を回っています。年間100回以上は公演し、昼は北海道で公演、夜は鹿児島、翌日の昼は兵庫なんて時もある。

 ある意味、金に目がくらんで頑張っているところもあるね。そういう素直な感情こそ生きる原動力ですよ。働けばお金が入る、金が入れば酒が飲める。生きるために節制する気はさらさらない。それよりこの仕事が終わったらうまい酒が飲める、そう思う方がポジティブに、がんと共存しながら長生きできるんじゃないかなと思います。

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