独白 愉快な“病人”たち

漫画家 武田一義さん (38) 精巣腫瘍 ㊤

(C)日刊ゲンダイ

 手術はなんとか成功。次は抗がん剤治療です。ごはんの炊けるニオイに吐き気をもよおしたり、日々嫌いなものが変わる。つわりのひどいやつってこんな感じなんじゃないかと思いました。抗がん剤が口中に回って味覚が変になり、気持ち悪くなっているように僕には感じました。味は薄味だと分からない。よくかんで食べると、食事が抗がん剤と混じってマズくなる。それで妻に味の濃い、かまずに味わえるよう小分けにした料理を弁当にしてもらって食べていました。

 最初は試すたびに吐くものだから食べるのも怖くなるほどでしたが、徐々に相性の合う食べものが分かってきた。なかでもおいしく食べられたのが、コンソメ味のポテトチップス、レモン味のソーダCCレモンでした。

 闘病中、一番感じていたのは、病気によって仕事を失う恐怖です。フリー稼業としては、がんで治らないかも、というより、仕事を失うことが何より現実的で恐ろしかった。幸い、僕の勤めていた漫画家の奥浩哉先生は、僕の代わりのアシスタントを入れずに待っていてくださった。戻るところがあることが、何よりの心の支えになりました。(次回につづく)

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