どうなる! 日本の医療

行政批判した医師が懲戒解雇 厚労省は病院に圧力をかけ言論封殺したのか

厚生労働省
厚生労働省(C)日刊ゲンダイ

 100兆円に膨れ上がった日本の予算の3分の1を握る厚労省役人。日本の医療制度が大変革を迎える中、巨額な予算にあぐらをかき、テングになっていないか。

 マイナンバー制度を巡る汚職事件で、厚労省情報政策担当参事官室室長補佐が入札で便宜を図った見返りに賄賂を受け取り逮捕されたのは、周知の通り。最近、注目されているのが千葉県の有名病院の看板医師の懲戒解雇問題だ。亀田総合病院(本部・千葉県鴨川市)の元副院長で医師の小松秀樹氏(66)に聞いた。

「私はこの9月、病院を懲戒解雇になりました。形こそ病院の自主判断ですが、背景に厚労省の役人の言論封殺があったと考えています。これに対し検察への刑事告発を含め、徹底的に争うつもりです」

「医療の限界」「医療崩壊」などの著書がある小松氏は、厚労行政を厳しく批判してきた。新型インフルエンザ騒動で大量の事務連絡を連発して医療現場を混乱させたこと、医療機関から消費税損税(控除対象外消費税)を取り上げ、それを補助金としてばらまき、医療機関を支配しようとしたことなど批判は多岐にわたる。

 千葉県に対しても、看護師養成、東千葉メディカルセンターについての失政を細かく指摘してきた。

 これに対し、千葉県が嫌がらせに出たという。

「高齢者の財産管理、地域での医療人材確保と患者や要介護者をどうするかなど、地域包括ケアをテーマに13年度から3年計画で地域医療再生臨時特例交付金を千葉県から頂き、事業を進めていました。ところが決定されていた14年度補助金を一方的に減額、15年度も含め突然、補助金を打ち切ると告げられました」

 驚いた小松氏は、違法性を指摘するとともに、厳しく説明を求めた。すると一転して「減額、打ち切りは誤りだった」と謝罪してきたという。小松氏は一連の経緯と担当者への処分を求めた文書「千葉県行政における虚偽の役割」をメルマガに発表した。

「この後、病院の経営者に呼び出され、行政批判をやめるよう言われました。“厚労省職員から、行政批判を今後も書かせるようなことがあると、亀田の責任と見なす。そうなれば補助金が配分されなくなるとほのめかされた”というのです。これが事実なら、憲法が定める表現の自由に関わる大問題です。この後、この厚労省職員の名前が判明しました。そこで厚労大臣宛てに、調査と厳重対処を求める申し入れ書の原案を厚労省の高官に提出いたしました」

 ところが、なぜかこの原案が千葉県経由で、9月2日に亀田理事長に送付され、それが小松氏にまた転送されてきたという。

「この日、複数の人から、理事長が私を9月中に懲戒解雇すると話していると聞きました」

 結局、亀田総合病院は①医療法人の名誉を損なう行為に及んだ、②千葉県非難をやめるよう求めたが指示に従わなかった、③職務・管理上の指示命令に違反して厚労大臣宛ての書面を提出し、同省職員の実名を挙げて対処を求めた――などを理由に、小松副院長の懲戒解雇を決めたという。9月25日のことだった。

「補助金の裁量権をちらつかせることで医療機関を締め付け、役所に批判的な医師を解雇させ、自分たちに不都合な言論を封殺したということです。許されません」

 ちなみに亀田総合病院に取材を申し込んだところ、「個別の取材には応じない」(広報部)との回答だった。

村吉健

村吉健

地方紙新聞社記者を経てフリーに転身。取材を通じて永田町・霞が関に厚い人脈を築く。当初は主に政治分野の取材が多かったが歴代厚労相取材などを経て、医療分野にも造詣を深める。医療では個々の病気治療法や病院取材も数多く執筆しているが、それ以上に今の現代日本の医療制度問題や医療システム内の問題点などにも鋭く切り込む。現在、夕刊紙、週刊誌、月刊誌などで活躍中。