医者も知らない医学の新常識

抗酸化サプリでがんが進行!?

抗酸化サプリにはマイナスの声も
抗酸化サプリにはマイナスの声も(C)日刊ゲンダイ

 人間の呼吸や代謝などの結果として生じる「活性酸素」は、遺伝子に傷をつけ、がんの原因のひとつとなっている――。これは、最近までやみくもに信じられてきた考え方です。

 そこから、体内の活性酸素を除去するような働きを持つ「抗酸化物質」は、がんの予防になるのでは……、という想定をもとに「抗酸化」がうたい文句のサプリメントが今ももてはやされています。

 皆さんのなかにも、「ビタミンC」「ビタミンE」「βカロテン」「葉酸」といった抗酸化作用が期待されるサプリメントを飲まれている方がいらっしゃるはずです。

 ところが、「抗酸化剤ががんに効く」というのは、少なくとも精度の高い臨床試験では確認されたことはありません。

 ビタミンCのがんに対する効果は、証明されませんでした。ビタミンEが前立腺がんを増やしたり、βカロテンを飲んだ方に肺がんが増えたりと、逆の結果も報告されています。活性酸素を除去すればがんは減るはずなのに、これはどうしたことなのでしょうか? 

 最近、「ネイチャー」という有名な科学誌に、その答えとなる興味深い論文が掲載されました。人間の遺伝子の一部を持ったネズミを使った実験ですが、メラノーマという悪性の皮膚がんの細胞が簡単に転移しないのは、「血液の中では酸化ストレスがあって、それががんを抑え込んでいる」ということが分かったというのです。

 抗酸化剤を注入すると、それによってがんは進行して転移してしまいます。つまり、悪者のように思われた活性酸素は、がん細胞を作る原因のひとつである一方、血液に広がったがん細胞に転移をさせないような良い作用も持っていたのです。

 サプリメントはがんになる前なら一定の効果がありますが、がんになったらむしろ取らない方がよいというのが、近い将来のがん治療の新常識になるかもしれません。

石原藤樹

石原藤樹

信州大学医学部医学会大学院卒。同大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科研修を経て、1998年より「六号通り診療所」所長を務めた。日本プライマリ・ケア学会会員。日本医師会認定産業医・同認定スポーツ医。糖尿病協会療養指導医。