薬に頼らないこころの健康法Q&A

医師面接は従業員の会社批判を聞く場ではない

井原裕 独協医科大学越谷病院こころの診療科教授(C)日刊ゲンダイ

 医師、とりわけ精神科医は、日常診療においても「『パワハラでうつ病になった』と診断書に記してほしい」と求められることはあります。ただ、医師は、「パワハラ」や「セクハラ」の現場を目撃しているわけではないし、その事実を立証すべき立場でもありません。

 それらの人権に関わる問題は、医師面接の場で扱うべき事項ではありません。むしろ、人権擁護委員なり、弁護士なり、労働基準監督署なりに相談すべきでしょう。特に人権擁護委員は、法務大臣が委嘱した民間人で、職務執行にあたり守秘義務も課せられています。いじめ、セクハラ、パワハラ等の相談も受け付けています。しかも無料です(連絡先は「みんなの人権110番」〈[電話]0570・003・110/全国共通〉)。「弁護士は金がかかる」「労働基準監督署では角が立つ」と思えば、こちらを利用するといいでしょう。

 ともあれ、制度というものは、すべて目的外使用のリスクをはらんでいます。ストレスチェック制度も例外ではありません。でも、これはこころの健康のための制度で、労務問題に関する制度ではありません。医師は健康管理の専門家にすぎません。労務問題、人権問題の専門家ではないのです。この自明の事実を、従業員も事業者も医師も、あらためて確認しておく必要がありそうです。

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井原裕

井原裕

東北大学医学部卒。自治医科大学大学院博士課程修了。ケンブリッジ大学大学院博士号取得。順天堂大学医学部准教授を経て、08年より現職。専門は精神療法学、精神病理学、司法精神医学など。「生活習慣病としてのうつ病」「思春期の精神科面接ライブ こころの診療室から」「うつの8割に薬は無意味」など著書多数。