傾斜0.6度でめまいや頭痛…“傾き住宅”に潜む「病気リスク」

傾斜角0.6度でめまいや頭痛が…
傾斜角0.6度でめまいや頭痛が…(C)日刊ゲンダイ

 日に日に騒ぎが大きくなる横浜市都筑区の“傾きマンション問題”。建物の安全性が懸念されるだけでなく、住人の健康に被害を及ぼす可能性もある。

 傾きマンションは、住人が西棟と中央棟をつなぐ渡り廊下の手すりに約2センチのズレを見つけたことが発端となり、計9本の基礎杭が強固な地盤の支持層に届いていないことが判明した。床が1.5センチ傾いていたり、玄関扉が閉まりにくくなった住人もいて、建物の傾きの角度は0.3度弱ともいわれている。

 傾いた住宅は、建物の強度に不安があるのはもちろん、住人の健康も脅かす。日本建築学会が発表している「液状化被害の基礎知識」のデータによると、人は床が約0.3度傾いていると傾斜を感じ、0.6度程度になると、めまいや頭痛などの健康障害が生じるという。2~3度で、めまい、頭痛、吐き気、食欲不振といった比較的重い症状が表れ、7~9度だと上記の症状に加え、強い疲労感、半数以上で睡眠障害が起こるという。

 床にビー玉を置いて転がり出すのが約0・6度といわれている。それくらい微妙な傾きでも体調不良につながる恐れがあるのだ。

■真っすぐ泳げなくなることも

 慶応大学理工学部システムデザイン工学科の小檜山雅之准教授は、11年8月に東日本大震災で液状化被害を受けた千葉市美浜区の住民の健康障害に関する調査を実施。傾いた住宅で暮らす人々から、数々の体調不良の訴えがあったという。

「もちろん個人差はありますが、おおむね0・7度の傾きで、健康被害を訴える住民が増えました。われわれは、床や建物が真っすぐであることを前提に生活しています。しかし床や建物が傾いていると、視覚から入る情報と、耳の中の器官や体が感じる重力の方向にズレが生じ、違和感を覚えます。そうした環境で長時間生活していると、平衡感覚の障害や体の調子を整えている自律神経の失調が起こり、健康障害が表れると考えられているのです」

 また、視覚の情報により頭を床と垂直に保とうとする方向と、体を真っすぐに支えようと踏ん張る方向が、傾きによってズレてしまうと、本来なら使わなくてもいい筋肉を常に緊張させることになる。それが血行不良につながり、頭痛や肩こりを起こす原因にもなる。

 違和感による精神的なストレスから食欲不振や不眠などの症状を訴えたり、傾いた住宅で低い側に頭を向けて寝ることで頭痛を起こしたりするケースもある。

 小檜山氏の調査では、逆に床や建物の傾きに慣れてしまい、それが体調不良につながる例もあったという。

「人間には順応性があるので、徐々に傾きに慣れていく場合もあります。傾いた住宅で暮らしていても問題なかった男性が、傾きがない屋外に出たときにめまいがするという訴えがありました。傾きに順応してしまった高齢女性は、水泳のためにフィットネスクラブに通っていたのですが、真っすぐ泳げなくなってしまったといいます」

 横浜の傾きマンションのような施工不良だけでなく、軟弱な地盤に建てた住宅が徐々に沈下して傾く被害も珍しくないという。少しずつ床や建物が傾いてきて、自分では気づかないなんてこともある。原因不明の体調不良が続いたら、家の傾きを確認してみてはどうだろう。