しなやかな血管が命を守る

【抹消動脈疾患】 症状が出る前でも簡単な嫌なさで早期診断できる

東邦大学佐倉病院の東丸貴信教授
東邦大学佐倉病院の東丸貴信教授(C)日刊ゲンダイ

 末梢動脈疾患(PAD)は、高血圧症や糖尿病などの生活習慣病や喫煙などが原因で手足の動脈が硬く、細くなり、最後には完全に詰まってしまう恐ろしい病気です。

 下肢の動脈に多く見られ、典型的な自覚症状は間欠性跛行です。歩くと足や腰の痛みや痺れが出て、止まると治まります。脊柱管狭窄症や座骨神経痛でも似たような症状が出るため、そうとは知らずに整形外科にかかる患者さんも少なくありません。重症では、潰瘍ができたり足が腐ってしまうことすらあります。

 今年の欧州心臓病学会では、すべての人にPADの診断が必要かどうかの議論がありましたが、生活習慣病など虚血性心臓病のリスクのある人では積極的にすべきとの見方が一般的でした。

 こうした症状が出るときは血管の詰まりが進行していることが多いのですが、症状が出る前でも、比較的簡単な検査でPADは診断できます。気になる人は覚えておいてください。

 最も簡単に調べるには、足の動脈の拍動を手の指などで確かめること。足の付け根(大腿や総腸骨動脈)、膝裏(膝窩動脈)、踝の後ろ(内踝動脈)や足の甲(足背動脈)などを触れば、拍動があるかどうかで詰まっている場所もわかります。

 診療所や病院で行う比較的簡単な検査でも診断できます。ABI検査(足関節上腕の血圧比)がお勧めです。これは、足首と上腕の血圧を測定し、その比率(足首収縮期血圧÷上腕収縮期血圧)を計算するものです。ちなみに足首のほうがやや高い値だと正常です。

 ABI検査の正常値は1以上です。0.9以下であれば、末梢動脈の詰まりが疑われます。しかし、私どもの最近の報告も併せて、膝より下の動脈閉塞ではABIが0.9以上の症例が半分近く認められることが知れており、この検査への過信は禁物です。

 症状の有無にかかわらず、超音波検査や造影CT、MRI、動脈造影検査で動脈の詰まりがあるかどうか確定します。これらの検査は次のような特徴があります。

◆血管超音波(エコー)検査

 超音波を対象物に当てて、その反射を映像化し、動脈の詰まっている場所を探し出し、血管や血流を調べる検査です。動脈の血液の流れを観察することで、血流の波形と収縮期の最高血流速度(PSV)を測定し、波形の変化とその増加で詰まり具合を診断します。また、血流のカラー画像で狭窄度と血流が同時に評価できます。

 最新のデータでは末梢動脈疾患の正確な診断率は8~9割といわれています。

◆MRI(MRA)

 核磁気共鳴画像で、アレルギーや腎機能を悪くする恐れのある造影剤を使用しないのが一般的です。下肢動脈全体の画像も得られ、内径の狭窄度や血管壁の状態、血流速度などの評価が可能です。超音波検査よりやや診断精度が高いようです。

◆造影CT検査

 造影剤を静脈内に注射して、CT画像上に動脈の輪郭を映し出す検査です。動脈全体が立体的に見えて、血管壁の石灰化などの硬化の状態や狭窄度を正確に知ることができます。動脈超音波検査やMRIよりも正確に閉塞部位を診断評価できます。

 その診断精度は95%以上といわれています。

◆下肢動脈造影検査

 カテーテルという管を動脈に入れて、造影剤を注入して動脈の詰まり具合の確定診断ができます。

 ちなみに、動脈硬化を診断するPWV検査(脈波伝播速度)や心臓足首血管指数(CAVI)は、動脈硬化で高値になりますが、PADが進むと逆に低下してきます。

 PADの下肢動脈の詰まりは早期診断し、症状と血管や全身の状態を診た上で、最善の治療法を検討することが重要です。

東丸貴信

東丸貴信

東京大学医学部卒。東邦大学医療センター佐倉病院臨床生理・循環器センター教授、日赤医療センター循環器科部長などを歴任。血管内治療学会理事、心臓血管内視鏡学会理事、成人病学会理事、脈管学会評議員、世界心臓病会議部会長。日本循環器学会認定専門医、日本内科学会認定・指導医、日本脈管学会専門医、心臓血管内視鏡学会専門医。