独白 愉快な“病人”たち

作家 荻野アンナさん (57) 大腸がん ㊦

(C)日刊ゲンダイ

 大腸がんを切除したのが一昨年の5月。リンパ節に転移があったので、退院後は通院で「ゼロックス療法」という抗がん剤治療を受けました。

 ゼロックスって、コピー機の名前みたいですよね。でも、金額を聞いて目が丸くなりました。1回の点滴と投薬で15万円! 高額医療で10万円は戻ってきますが、それでも5万円と、お高い。

 抗がん剤治療は、点滴1回と飲み薬を2週間、休息期間1週間を1クールとして9クール。

 その後は飲み薬だけを半年。終えるまで1年かかりました。

 副作用がつらかったですね。薬に自分の体を乗っ取られたかのように、体が言うことを聞かなくなる。

 足に湿った砂を入れられたような重だるさがあり、起き上がるとふらつきました。
「異味」もありました。料理をすると味が決まらず、調味料を足しまくって正解がわからなくなる。

 冷たいものが全て駄目になり、冷水を飲むと喉に銀紙が詰まるような感覚。喉越しのいいはずのプリンも、まるでセメントです。手を洗っただけでも全身にゾワッと電気が走り、冷凍庫に手を入れるなんてとてもできないほどでした。この頃、夏でもスイカをレンジで温めて食べていたんですが、味覚が戻ってから食べると、マズイ! あれは抗がん剤で感覚異常になっていたから、食べられたんですね。

 大腸がんは胃は元気なので太るんだそうです。私も、抗がん剤治療中に白血球がガクンと下がったら、なぜか食べ盛り期がやってきました。いつもはサッパリしたものが好きなのに、豚骨など脂っこいコッテリしたものが大好きになって、一時は4キロ減った体重も、元の体重から10キロ増。変な食欲は抗がん剤治療を終えると治まったものの、ボクシングで鍛えた筋肉はすっかり脂肪に変わりました。

 そもそも、なぜ大腸がんになったのか。毎年、勤務先の慶応大学で健康診断は受けているし、胃カメラの検査もやっていた。ところが、検便だけやっていなかったんです。いつも準備し忘れて、検査を飛ばしていたんです。

 子供の頃から馴染みもあるし、たいした検査でもないと思っていただけに、意外な盲点でした。実は5月に血便が出る前、3月と4月にも便に血のようなものが混じっていたことがあったんです。

 サインが出ていたのに、過労と座り仕事で痔かなんかだろうと見過ごしていました。もしかしたら検便で早期発見できたかもしれません。

 去年の4月には大学に戻り、“徐々に復調”なんて思っていたら、昨年の秋に今度はうつの症状が戻ってきて、無気力に襲われるようになりました。うつよ、おまえは戻らなくてもいいのに……。

 壁に張ってある「飲む、ウツ、買う」の“ウツ”はうつ病のうつ、“買う”は買い物好きの買うなんですけどね。抗うつ剤を飲みながら仕事をこなす以前のような日々に戻っちゃいました。

 でも、こんなうつの私でも、エロ連載を書いているとなんだか明るくなる。エロは副作用なく免疫力を上げてくれるいい薬ですね。