独白 愉快な“病人”たち

作家 荻野アンナさん (57) 大腸がん ㊤

(C)日刊ゲンダイ

 ざっくばらんに話してもらえそうな看護師さんを見つけて、エロネタ取材もしていました。面白かったのは、いろんなものを肛門に入れて救急車で運ばれてくる人たちの話。その理由を、みんな一様に「転んじゃった」と言うらしいんです。転んでそんなモノが入るのかって話ですが。

 中でも大物は、シャンプーボトルを肛門に入れて救急車で運ばれてきた中年男性。取り出すのに手術しか方法はなく、その手術には家族の同意書が必要で……。

 その男性は「女房にだけは言わないでください!」と懇願したそうです。まあ、結局はバレるんですけど。そんなエロ話を聞いていると、体のしんどさも紛れ、エロって生きるためのエネルギーなんだな、とつくづく思いました。

 がんの治療と並行して、介護うつも診てもらっていたんです。ところがそのうち、抗うつ薬がいらなくなった。生命の危機が優先されたせいで、「うつ」が引っ込んだんです。(後編につづく)

▽おぎの・あんな 1956年、神奈川県生まれ。慶応義塾大学文学部教授。91年「背負い水」で芥川賞受賞。2005年に11代目金原亭馬生に弟子入り、落語家・金原亭駒ん奈としての顔も持つ。近著に「えろたま」(中央公論新社)がある。

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