どうなる! 日本の医療

「地域包括ケア」の理想と現実

高齢になっても住み慣れた地域で暮らしたい(C)日刊ゲンダイ

 例えば、高齢者への多剤投与だ。単に無駄であるばかりでなく危険だ。抗がん剤にしても、効果が小さい割に高価なものが少なくない。

「その多くが欧米で開発されているため、医療費の多くが米国などに流れています。その分、医療費の増加が貧困家庭を圧迫して、高齢者を支える層がさらに薄くなる。むしろ、働き手の人口を増やして収入を上げることが、将来の高齢者対策なのです」

「寝たきりでも命がある限り生命維持を図る」という日本の終末医療の考え方も、今こそ国民的議論をすべきだと小松医師は言う。

「欧州では『人間、食べられなくなったら自然に命を任せる』という考え方が定着しているため、日本ほど胃ろうをしません。結果、『寝たきり老人』はほとんどいないのです」

 このままでは地域包括ケアの議論は遅々として進まないし、その中心的役割を果たすべき在宅専門医やリハビリ専門医の数を増やす工夫もない。やがて高齢者対策の議論は時間切れとなり、日本全体がうば捨て山になりかねない。

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村吉健

村吉健

地方紙新聞社記者を経てフリーに転身。取材を通じて永田町・霞が関に厚い人脈を築く。当初は主に政治分野の取材が多かったが歴代厚労相取材などを経て、医療分野にも造詣を深める。医療では個々の病気治療法や病院取材も数多く執筆しているが、それ以上に今の現代日本の医療制度問題や医療システム内の問題点などにも鋭く切り込む。現在、夕刊紙、週刊誌、月刊誌などで活躍中。