天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

血管が老化するとどうなるか説明しましょう

順天堂大医学部の天野篤教授
順天堂大医学部の天野篤教授(C)日刊ゲンダイ


 健診で、実年齢よりも動脈硬化が進んでいると指摘されました。そのまま放置しておくのは、やはり問題でしょうか。(44歳・男性)


「血管年齢」という言葉があります。血管の老化度を表すもので、別の言い方をすれば「動脈硬化がどこまで進んでいるか」ということです。

 動脈は体中に酸素や栄養素を運ぶ血管で、その壁は内側から内膜、中膜、外膜の3層からなり、表面は内皮細胞で覆われています。本来、内皮細胞の表面は滑らかで、血液がスムーズに流れるようになっています。

 しかし、加齢とともに血管は徐々に硬くなって老化していきます。健康な人でも、血圧、血糖、コレステロールなどによって、血管が少しずつ傷つけられるからです。

 ただし、同じ年齢でもその人の生活習慣や持病によって進行の度合いはさまざまで、最近は20代でも動脈硬化が進んでいる人が増えているといわれています。心臓の手術をしていても、血管を見た時に、年齢よりも血管の老化が早い=動脈硬化が進んでいるかどうかハッキリわかります。

 動脈硬化は心筋梗塞や狭心症といった心臓疾患の大きな原因です。しっかり対策してください。

 動脈硬化は、まず血管の拡張・蛇行から始まります。それを促す大きな要因が「高血圧」です。血圧が上がると、それを受け止めなければならない血管は拡張していきます。そうなると、血管が分岐している部分で血管同士がこすれてストレスがかかり、蛇行したり、血管内の堆積物がたまりやすくなるのです。

 血液中には、コレステロール、中性脂肪、リン脂質などが含まれています。中でも、LDL(悪玉)コレステロールが多い「高脂血症」の人は、血液の粘りが増して血管の壁に脂質が付着し、動脈の弾力性が失われて硬くなったり、血管の内壁が狭くなって血液が流れにくくなります。この状態が動脈硬化です。

 血液が流れにくくなると、それだけ高い圧力が要求されるため、ポンプの役割がある心臓に負担がかかります。また、血管壁にLDLコレステロールが付着することにより作られる粥腫の崩壊によって血栓ができやすくなり、心筋梗塞などの心臓病のリスクが上昇するのです。

 血管年齢を若く保つ=動脈硬化を予防するには、「高血圧」と「高脂血症」をしっかりコントロールすることが必要です。最近は、コレステロール値が高くても気にせず放っておいて構わないといった声も聞かれますが、これは大きな間違いです。しっかり制御しておかないと、将来的にさまざまな問題を引き起こします。

 それまで何も病気がない高齢者が、たまたまコレステロール値を測ってみたら高かったというケースであれば、それほど問題はありません。しかし、働き盛りの年代の人が高コレステロールを放置すると、いずれ大きなトラブルを引き起こすのは、さまざまな研究からも明らかです。

 平均寿命が75歳程度の時代や地域の人なら、それでも大きな問題はないかもしれません。しかし、高齢化が進んでいる今の日本は、そこから先を見なければいけません。LDLコレステロールがトラブルを引き起こすのは、まさに後期高齢者に差しかかるタイミングなのです。

 血管年齢を維持する=動脈硬化を食い止めるための決定的な方法は、まだ明らかになってはいません。地道でも、効果があると認められている食生活の改善、禁煙、ストレス解消、運動、減量などに取り組んでください。

天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。