薬に頼らないこころの健康法Q&A

カウンセリングはなぜ話を聴くだけなのか?

井原裕 独協医科大学越谷病院こころの診療科教授(C)日刊ゲンダイ


 臨床心理士の多くは、傾聴を心理療法の中心に据えています。傾聴、支持、共感を職業的アイデンティティーとしています。このようなカウンセリング観に影響を与えたのが、カール・ロジャーズというアメリカの心理療法家です。彼は、人には成長を志向する性向が備わっており、傾聴によって受容されたと感じたときに、成長が実現されると考えました。そして、クライアントに対し、批判も助言も控えて、聴くことに徹する「非指示的カウンセリング」を主張しました。

 このロジャーズの方法が日本の心理療法家たちの間にも広がりました。その結果、臨床心理士たちは、「ひたすら聴け」「助言や指示をするな」「クライアントが自分自身で答えを見つけるのを手伝うのが君たちの仕事だ」と言われて育ちます。

 ただ、ロジャーズの方法の理想化は禁物です。そもそも彼の方法は、彼の生前から「聴くだけでセラピーといえるのか?」「クライアントの言っていることをオウム返しにして、それで本当に成長するのか?」といった批判がありました。そのため、ロジャーズは、自らの方法を「非指示的療法」から「クライアント中心療法」と言い換えました。

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井原裕

井原裕

東北大学医学部卒。自治医科大学大学院博士課程修了。ケンブリッジ大学大学院博士号取得。順天堂大学医学部准教授を経て、08年より現職。専門は精神療法学、精神病理学、司法精神医学など。「生活習慣病としてのうつ病」「思春期の精神科面接ライブ こころの診療室から」「うつの8割に薬は無意味」など著書多数。