薬に頼らないこころの健康法Q&A

カウンセリングはなぜ話を聴くだけなのか?

井原裕 独協医科大学越谷病院こころの診療科教授(C)日刊ゲンダイ

 しかし、呼称は変えたものの、その本質は依然として徹底した傾聴にありました。無条件の肯定と共感的な理解を示せばクライアントは自分を発見するという、楽観的な人間観がそこにはありました。ロジャーズは、もともと被虐待児のカウンセリングや、青少年のグループ・セラピーをフィールドとしていました。だから彼の方法は、まだ自分自身の姿を見失いがちな若者たちが、人生の先輩たちに鏡になってもらって自分を確認するといった目的なら意味を持ちます。

 しかし、本紙の読者は皆、大人です。怒りと不満を抱えつつも顔には出さないで都市の雑踏を淡々と歩いている大人たちです。こういう人たちに、傾聴だけで目的が達すると考えることは的外れといえます。

 本紙の読者は、都会という名のフィールドで戦うアスリートです。「自分探し」は必要なくても、「コーチ役」は必要かもしれません。薬だけの精神科医でもなく、聴くだけの心理士でもない、新たな都市型の治療者像が求められているといえるでしょう。

3 / 3 ページ

井原裕

井原裕

東北大学医学部卒。自治医科大学大学院博士課程修了。ケンブリッジ大学大学院博士号取得。順天堂大学医学部准教授を経て、08年より現職。専門は精神療法学、精神病理学、司法精神医学など。「生活習慣病としてのうつ病」「思春期の精神科面接ライブ こころの診療室から」「うつの8割に薬は無意味」など著書多数。