有名病院 この診療科のイチ押し治療

【めまいリハビリ】横浜市立みなと赤十字病院耳鼻咽喉科(横浜市中区)

(提供写真)

 いくつも病院を渡り歩いても治らない。どこを受診しても同じ薬が出される。「精神科へ行きなさい」と言われた――。

 そんな“めまい”に悩まされている患者が日本全国、海外からも紹介されてくる。めまい治療に定評のある同科は、集団で行う「めまいリハビリ」という体操を取り入れた治療で高い改善率を得ている。新井基洋部長(顔写真)は「めまいは寝ていては治らない」と言う。

「患者さんは体を動かしたときのめまいが強いと、そのまま安静にしようと考えます。しかし、それが結果的にめまいやふらつきを慢性化させてしまう状態を引き起こしているのです」

 めまいの原因の9割は、体の傾きなどを感知する耳(内耳)の異常からくるもの。同科の患者で多いのは、良性発作性頭位めまい症、原因がハッキリしないめまい症、前庭神経炎、加齢性の平衡障害、メニエール病、めまいを伴う突発性難聴などの病気だ。

「めまいは、内耳にある三半規管の平衡機能(バランスをとる機能)に左右差が生じることで起こります。めまいリハビリは、運動するときに体のバランスのズレを修正する機構を回復させることを目的とした訓練になります」

 訓練によって習得された機能は平衡感覚をつかさどる小脳に学習記憶されるので、勉強と同じように日常的に反復することが重要になるという。

 体操の種類は24種類ほどあり、外来や入院の患者に最初に指導するのは基本の12種類。座って目線や頭を動かすリハビリが7種類、立位で行う足踏み、片足立ち、ハーフターン(方向転換)、寝返りを想定した訓練などを行う。

 めまいリハビリ自体には診療報酬が付かないので、診療とは別で費用はかからない。独特なのは集団でリハビリを行うところ。午前中の診療時間後に、毎回30人ぐらいの患者が集まって体操の指導を受ける。なぜ、集団で行うのか。

「めまいを持つ患者さんは不安やうつを伴う場合も多いので、ひとりではなかなかリハビリをやる元気が出ません。集団で声を出してやることで前向きになれて、正しい体操のやり方を早く習得できるのです。参加する半数はリハビリで良くなった先輩患者さんで、慣れていない新規の患者さんをボランティアでサポートしてくれています」

 体操は、外来患者は自宅で1日3回、入院患者(4泊5日)は1日4回行う。通常の治療にめまいリハビリを組み合わせた同科の改善率は、外来では1カ月後で約60%、3カ月後で約70%。入院治療では1カ月後で約80%、3カ月後で約90%という。

 めまいリハビリは、新井部長の恩師である徳増厚二・北里大学名誉教授が道具を使って開発した方法で、その後、新井部長が道具を使わないで簡単にできる体操として改良してきた。

「薬物治療はもちろん必要ですが、『薬だけ』の治療に限界があるのも事実です。めまいリハビリで、悲し涙がうれし涙に変わった人が大勢います。決して、あきらめないでもらいたいと思います」

■横浜市が開設し、日本赤十字社が運営する総合病院。
◆スタッフ数=医師2人(非常勤医師5人)
◆年間初診患者数=約2000人(内めまい患者50%)
◆めまいリハビリの年間参加者数=延べ1万人