介護の現場

25人を夜通し介護して月収20万円

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

「ベッドに横たわっていた80代の老人が、いきなりウンコを投げてきて、私の衣服を汚す。記者さんは、給与をいくらもらえば、汚物にまみれたこうした老人介護の職業に就きますか」

 こう語るのは、50歳を越えたばかりの細野芳三さん(仮名)である。

 東京・杉並区に住む細野さんは40代半ばまで、1部上場企業に勤務する将来を約束されたエリートサラリーマンだった。

 独身で、年収も1000万円を超える悠々自適の恵まれた生活。だが、ささいなことで上司と意見が衝突し、会社に辞表を叩きつけた。

 退職後、しばらく失業保険と蓄えを崩して生活していたが、やっぱり働きたい。再就職活動を始め、決まったのが介護の仕事だった。

「50歳近くになって、自分が満足できるような就職先などありません。すぐにでも就職できるのは、人材不足が常態化している介護関係でした」

 2年間、社会福祉専門学校で学んだ細野さんは「介護福祉士」の資格を取得し、関東圏内にある「特別養護老人ホーム」の介護職員になった。

 1年ほど勤めたが、自宅から勤務先まで電車で約2時間の遠距離通勤はきつい。程なく都内にある「老健」(介護老人保健施設)に移った。

「介護福祉士」の資格を持っている上、特養で勤務をしていた経験から、採用試験は1回の面接でパス。現在の施設に勤務してもう4年になる。

「老健」は、介護を必要とする高齢者の自立を支援し、家庭への復帰を目指すのが目的という施設である。

 ほかに利用対象者(在宅介護が困難、カテーテルを装着している等)により、「介護老人福祉施設」や「介護療養型医療施設」に分かれる。

 細野さんが勤めるのは、「介護保険を給付され、入院治療の必要はないがリハビリや介護を必要とする要介護者」が入る施設だ。運営の母体は医療法人である。

「私の月収は大体、手取りで20万円ぐらい。夜勤ですと手当が付きますので、無理して月に5回ぐらいやります。それで生活はギリギリですね」

 夜勤は夕方に出勤し、翌日の朝方すぎまで。およそ12時間の労働で、一人で深夜、25床の介護を担当する。

「やれやれ、今日もあと一人のおむつを取り換えて勤務終了という時に、認知症が進んでいる老人からウンコを投げられる。この清掃で勤務時間がオーバーしてしまいます。嫌だなと思っても、そのままの状態にして日直の職員と代わるわけにはいきませんから」

 おむつを取り換え、体を拭いてやり、部屋に消臭剤をまく。でも、それで介護は終わったわけではない。老人の爪に残された大便をつまようじで丁寧に掘り出し、何度も手を洗ってあげる。

「最初の頃はプライドが許さず、涙がポロポロこぼれましたよ。安月収で、何でこんなことまでやらなくてはいけないのか……とね。でも今は介護の義務感というか、自分が食べるために淡々と仕事をやっています」