また、自己血を使うと術後の貧血を抑えられるメリットもあります。多くの場合、出血を伴う手術の後は貧血の状態が残ります。しかし、自己血を使って手術を行った後、徐々に回復して歩けるようになってくる最後のツメの段階で、手術で使わなかった自己血を体内に戻すと、貧血が劇的に改善します。患者さんはより元気な状態で社会復帰できるようになるのです。
こうした自己血輸血は、90年に「貯血式自己血輸血」、94年に「術中術後自己血回収術」が保険適用されたことで広まってきました。ただし、輸血部などの専門科がある大学病院や基幹病院でなければ、本格的な実施は難しいのが現状です。
私が勤務している順天堂大学病院の場合、通常の手術なら800㏄、大きな手術であれば1600㏄の自己血を用意してから手術に臨みます。患者さんには、手術を受ける前に通院してもらい、エリスロポエチンという造血剤を服用しながら2週間で400㏄ずつ貯蓄していきます。
天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」