天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

拒否反応、アレルギー、貧血を抑える自己血輸血

順天堂大医学部の天野篤教授(C)日刊ゲンダイ

 また、自己血を使うと術後の貧血を抑えられるメリットもあります。多くの場合、出血を伴う手術の後は貧血の状態が残ります。しかし、自己血を使って手術を行った後、徐々に回復して歩けるようになってくる最後のツメの段階で、手術で使わなかった自己血を体内に戻すと、貧血が劇的に改善します。患者さんはより元気な状態で社会復帰できるようになるのです。

 こうした自己血輸血は、90年に「貯血式自己血輸血」、94年に「術中術後自己血回収術」が保険適用されたことで広まってきました。ただし、輸血部などの専門科がある大学病院や基幹病院でなければ、本格的な実施は難しいのが現状です。

 私が勤務している順天堂大学病院の場合、通常の手術なら800㏄、大きな手術であれば1600㏄の自己血を用意してから手術に臨みます。患者さんには、手術を受ける前に通院してもらい、エリスロポエチンという造血剤を服用しながら2週間で400㏄ずつ貯蓄していきます。

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天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。