課題は“誤診”と医師選び 「慢性胃炎治療」の意外な落とし穴

自覚症状がなく放置する人も多い
自覚症状がなく放置する人も多い(C)日刊ゲンダイ

 日本人の6割に胃炎があるといわれている。慢性的な胃炎を引き起こすヘリコバクター・ピロリ菌が、胃がんなどの原因になっていることは知られているが、それを放置している人がまだまだ多いということ。医師にも問題があるという。

 慢性胃炎にかかっている人は、ほぼ100%がヘリコバクター・ピロリ菌に感染している。感染があると、ピロリ菌を退治しようとして大量の白血球が胃の粘膜に集まり、サイトカインという物質が放出される。しかし、ピロリ菌は胃の粘膜ではなく胃粘液の中を泳いでいるため、サイトカインが届かない。そのため“誤爆”で自分自身の粘膜を傷つけることになり、炎症を引き起こす。

 日本消化器病学会専門医の江田証氏(江田クリニック院長)は言う。

「アルコールやストレスなどが原因になる急性胃炎なら、放置しておいてもそのうち改善します。胃の粘膜は再生力が強いので、一時的な炎症があっても元に戻るのです。しかし、ピロリ菌によって起こる慢性胃炎は、除菌しない限り続きます。粘膜はジワジワと破壊され続け、そのうち粘膜がペラペラになってしまう萎縮性胃炎が進みます。これが、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃がんなどの原因になるのです」

 胃とは関係ない病気も引き起こす。慢性胃炎があると、サイトカインも放出され続ける。サイトカインは全身の血管を巡って免疫の働きを狂わせ、慢性じんましん、慢性頭痛、悪性リンパ腫、特発性血小板減少性紫斑病といった病気の原因になる。

 血管も傷つけられるため動脈硬化が進み、心筋梗塞や脳卒中のリスクもアップ。また、脳神経系にも大きな影響を及ぼし、アルツハイマー型認知症の発症リスクが2倍になるという報告もある。

 まさに“万病のもと”といえる慢性胃炎をしっかり治すには、ピロリ菌を除菌するしかない。

「ピロリ菌を除菌すると、半年ほどで慢性胃炎はなくなります。すでに萎縮性胃炎になっている人も、10年弱で胃の粘膜が再生して萎縮が改善します」(江田氏)

■万全を期すなら他の検査法も

 ただ、慢性胃炎の治療には落とし穴がある。これといった自覚症状が出ないため、気づかずに放置している人が多いこともそうだが、“誤診”も少なくないという。

 現在、全国の都道府県で「ABC検診」と呼ばれる胃がんリスク検診が行われている。「ピロリ菌感染の有無」と「ペプシノーゲン検査」(胃粘膜から分泌されるペプシノーゲンの血中濃度を測定し、萎縮の進行度を診る)により、胃がんにかかりやすい人をスクリーニングする有益な検診といえるが、これだけでは感染を見落とすケースがあるという。

「ABC検診では、ピロリ菌がいない人をA群、ピロリ菌に感染していて胃の萎縮が軽い人をB群、萎縮がひどい人をC群に分けます。さらに、過去にピロリ菌に感染していたものの、胃が荒れすぎたためピロリ菌が自然消滅した人はD群に分類しています。D群の人は〈もうピロリ菌を除菌する必要がない〉と判断されるのですが、D群の人を尿素呼気試験で調査した研究によると、実際には50%の人にピロリ菌が存在し、除菌が必要だったのです」(江田氏)

 加齢が進むと血液中のピロリ菌の抗体の値が自然に下がってきて、消えてしまう人がいるのが見落としの原因だという。検診で「ピロリ菌陰性」と診断されても、万全を期すには他の検査法でも調べたほうがいい。

「診てもらう医師にも気をつけてください。ひと昔前の医師は、慢性胃炎を〈年をとれば誰にでも起こるもので、放っておいても問題ない〉と誤って解釈していました。こうした古い考えにとらわれている医師も、残念ながら少なくないのです」(江田氏)

 慢性胃炎を治すなら、新しい知識を持った「日本ヘリコバクター学会認定ピロリ菌感染症認定医」に診てもらうべし。

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