薬に頼らないこころの健康法Q&A

精神科医が実践しているメンタル管理

井原裕 独協医科大学越谷病院こころの診療科教授
井原裕 独協医科大学越谷病院こころの診療科教授(C)日刊ゲンダイ


 この連載を続けているあなた自身は、ご自身の精神状態をどう維持しているのでしょう? ご自分の経験から教えてもらえませんか。


「こころの健康法Q&A」のような連載を続けていると、当然ながら、「じゃあ、おまえはどうなんだ?」という質問を受けます。

 この仕事を続けて四半世紀が過ぎました。もう若いとはいえません。しかし、まだ、経験で体力の低下を補うことができる年代だと思います。精神科医の仕事は「お客さま商売」です。外来の診察室で疲労が顔に出ないよう、体調管理に気をつけています。メンタルの管理はフィジカルの管理がすべてです。

 生活は規則正しく、単調といえるほどです。就床は午後11時半から12時にかけて、起床は6時半から7時にかけてです。休日は多少朝寝坊しますが、それでも7時半には起きています。毎日7時間の睡眠を確保できるのは、ひとえに職場近くに住むことができているからです。前任地は1時間半の通勤を伴いましたので、疲れました。

 精神科医の場合、外来が最大の激務です。したがって、外来日に体調がベストになるよう心がけています。週5日外来に出ていますが、前日は原則として酒は飲みません。外来診察は午前中の日は9時から午後3時ぐらい、午後の日は1時から5時までです。この時間帯に一日の心身のコンディションのピークが来るようにしています。

 精神科の外来というものは、患者の数も多いですから、時間との闘いです。自分の全診察時間を患者数で割った時間が、患者さん1人当たりの時間ということになります。すべての患者さんに公平にご奉仕させていただくためには、1人の患者さんに長く時間をとるわけにはいきません。「お大事に」と言って患者さんを送り出した瞬間に、もう次の患者さんのことを考え始めています。前の患者さんのことを引きずった状態で、次の患者さんに接することは失礼なことですので、直ちに切り替えます。

 チャンネルの切り替えはこの職業に必須のスキルですが、新人時代は困難なことでした。今は、次の患者さんに集中することができるようになりました。

 外来も4時間を過ぎたあたりから、疲労がボディーブローのように効いてきます。とにかく、患者さんは次から次へと果てしなく入れ替わります。こちらは1人です。

 週1日は、午前、午後ともに外来の日があります。この日は、昼食を取って10分程度仮眠してから午後の外来に出ることもあります。仮眠ができれば、午後の外来は順調に進みますが、これができないと苦しい時間帯がやってきます。

 一日の診察が終了し、本日の最後の患者さんを「お大事に」といって送り出したとき、一気に疲れが出ます。最終回の「あしたのジョー」のような状態です。

 気をつけていることは、この連載で書いたことと同じです。①7時間超の睡眠を確保すること。そのために「1日は17時間しかない。その17時間を密度濃く過ごす」ことを肝に銘じています。また、②アルコールは控えめに。自分が酒に強くないので、自然とこうなりました。酒を飲んだ翌朝は、まるで当直の朝のような疲労が出ます。これでは仕事にならないので、自然と控えるようになりました。

井原裕

井原裕

東北大学医学部卒。自治医科大学大学院博士課程修了。ケンブリッジ大学大学院博士号取得。順天堂大学医学部准教授を経て、08年より現職。専門は精神療法学、精神病理学、司法精神医学など。「生活習慣病としてのうつ病」「思春期の精神科面接ライブ こころの診療室から」「うつの8割に薬は無意味」など著書多数。