健康は住まいがつくる

【高断熱住宅】入浴時の心拍変動20%ダウン 心臓への負担が軽くなる

「高断熱住宅が普及すれば、冬の心筋梗塞や脳卒中の発症を減らせるのではないか」――。そんな調査がすすめられている。では、高断熱住宅と無断熱住宅ではどれくらい室温が違うのか、健康への影響はどこまで分かっているのか。

 現在、日本にある全5200万戸の住宅の約9割は、ほぼ無断熱に近い状態だといわれる。慶応義塾大学理工学部システムデザイン工学科の伊香賀俊治教授が言う。

「現在の標準的な断熱性(平成11年基準)を満たした家と無断熱の家の居間の室温を比べると、暖房を使わない状態で暖かさが平均5度違います。無断熱ではさらに脱衣所や寝室などが寒くなります。この、部屋ごとの温度差も体に大きく影響します」

 伊香賀教授の研究室では、高知県の無断熱の寒い家に住む20人ほどに、高断熱のモデル住宅に体験宿泊してもらう社会実験を行っている。携帯型心電計をつけてもらい、自宅とモデル住宅での心拍の時刻変化を比較した。

 その結果、70代男性の例では、入浴時の心拍数の増加がモデル住宅では20%減。起床時の心拍変動も3分の1に減り、心臓への負担が明らかに少なかったという。

「起床時の最高血圧も自宅より平均6㎜Hg低くなりました。自宅の最低室温が5度で最高血圧165だった人は、モデル住宅(室温17度)では130強に下がりました。このようなケースでは、降圧剤よりよっぽど改善効果があるのです」

 実際に自宅を断熱改修した70代女性の改修前後の検証も行っている。この人の場合、断熱改修で寝室の早朝室温が6度から15度まで上昇した。その結果、起床時の2週間の平均血圧「最高146/最低89」が、「最高134/最低80」と著しく改善。家庭血圧の高血圧の診断基準を下回った。

 家を改修して高血圧が治ったことになる。

 また、主婦の身体活動量への影響を調べた分析では、断熱のいい家と悪い家に住む人を比べると、1日の歩数に1400歩の違いが出るという。

「1400歩の差は、認知症予防の活動指針でいえば1ランク違ってくるため、研究結果は認知症やロコモ(筋肉や関節などの運動器の障害により『立つ』『歩く』といった機能が低下した状態)の予防になるのではないかと考えられます。活動量が増えると動脈硬化の予防にもつながるので、結果的に血圧にもいい影響があるはずです」

 高断熱住宅には、他にも夏の熱中症予防、遮音や温熱による睡眠効率の向上、室内空気質の改善などのメリットもある。深部体温が約0・2度上昇することも確認されている。免疫力が高まるので、アンケート調査では風邪や咳、手足の冷え、皮膚のかゆみなどの有症率が顕著に下がるという。

「エビデンス(科学的根拠)を示すデータが出るのはこれからですが、高断熱住宅はさまざまな病気予防に有効性があると考えています」