常識と真逆の新理論 「一本の注射」で慢性的な痛みは消せる

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 五十肩や変形性膝関節症など、慢性的な痛みに悩んでいる人は、もしかしたら一本の注射が症状を劇的に改善してくれるかもしれない。江戸川病院運動器カテーテルセンター長の奥野祐次医師に聞いた。

 まずは、痛みのある箇所を軽く押してみてほしい。押している指の爪がやや白くなる程度の強さでいい。その箇所が別の箇所と比べて「痛い」と感じるなら、奥野医師が行う「血管による軽い炎症を抑える治療」が効く可能性がある。

 奥野医師は、慢性的な痛みの原因が「長引く軽い炎症にある」とみて、治療を行っている。従来の考え方は「炎症は1カ月もしないうちに治る。数年単位の慢性的な痛みは、炎症が原因ではない」と、奥野医師とは真逆。“新理論”に行き着いたきっかけは、乳がん患者の血管撮影だった。その患者は五十肩の痛みにも悩まされていた。

「私はがんの痛みを取る治療を行っていたのですが、乳がんの検査で撮った血管撮影を見ると、五十肩の痛みのところに細い新生血管が発生していて、微細な炎症を起こしていたのです」

 炎症が起こると、普通ならなんでもない動きにも神経線維が過敏に反応し、痛みの信号を脳に送る。新生血管による微細な炎症が患者の五十肩の痛みに関係しているのではないか――。そこで炎症を抑えるために、新生血管に薬剤を入れて血管をつぶす治療を行うと、痛みも改善した。

「炎症はどれくらいの期間続くかはっきり分かっていませんでした。しかし、その後の研究で、慢性的な痛みの患者さんには新生血管による微細な炎症があり、それが続くことで痛みも続くという結論に至ったのです」

■何をしてもよくならないなら…

 痛みを伴う疾患は、五十肩、変形性膝関節症、脊柱管狭窄症、変形性股関節症、顎関節症、帯状疱疹後疼痛、線維筋痛症など非常に多い。また、検査をしても異常が見当たらず、「原因不明」「精神的なもの」と言われている人もいる。

「病名がついている人からそうでない人まで、さまざまな患者さんが全国から来ます。病名がどうであれ、慢性的な痛みの多くには軽微な炎症があり、触診や超音波検査で確認できます」

 今、痛みの治療には鎮痛剤がある。しかし、鎮痛剤のような全身に効く治療では、痛みがある箇所(局所)にできた新生血管による軽微の炎症には効果がない。ちなみに、「鎮痛剤が効かなければ炎症が原因の痛みではない」とこれまでされてきたが、それは局所の炎症に作用していなかったからだ。

 神経ブロック注射も痛みの治療で使われるが、神経ブロック注射は炎症部分ではなく痛みが脳に伝えられる途中の神経に作用する。やはり軽微な炎症には効果がない。

「軽微な炎症にピンポイントで薬剤を効かせなくてはなりません。そこで注射で新生血管をつぶす作用のあるステロイド剤などを投与します。ステロイド剤は、通常使う量の4~8分の1と少量で、局所に使うので副作用の心配はありません」

 重症例には、カテーテル(軟らかい極細チューブ)を血管内に挿入し、薬剤を直接投与する。注射の場合は2~3回で、カテーテルは1回で痛みが消え、その箇所については再発もまれだという。注射は保険適用。カテーテルは自費診療で、江戸川病院では1回12万円ほどになる。

 痛みは生活の質を著しく下げる。何をしてもよくならない、という人は、この治療が「軽微な炎症があったかどうか」の判定にもなる。検討してはどうだろう。

▽新生血管とは
なんらかの原因で新しくできた血管のこと。もともとないものなので、除去しても問題ない。

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