しなやかな血管が命を守る

血管形成術の成功率は8割

東邦大学佐倉病院の東丸貴信教授(写真左)
東邦大学佐倉病院の東丸貴信教授(写真左)/(C)日刊ゲンダイ

 手や足など末梢血管の動脈硬化が進む「末梢動脈疾患」(PAD)は、血管の詰まった部位や症状によって治療法が異なります。

 下肢に表れるPADは以前、「下肢閉塞性動脈硬化症」といわれていました。下肢に栄養を送る血管は、腹部大動脈が骨盤のあたりで左右に分かれてそけい部を通り、膝の裏から3本に分かれて足に至ります。そのどこかでゆっくり狭くなり、最終的には完全に詰まってしまうのです。

 病状が進行すると次のような自覚症状が出ます。①一定の距離を歩くと、下肢筋肉に痛みが出て動けなくなる間欠性跛行が見られ、②重症になると安静にしていても痛みが出たり、潰瘍ができたり、黒くなって腐ってきたりします。

 しかし、この病気では、総腸骨動脈、大腿動脈や膝下の動脈が狭窄したり閉塞があったりしても、進行がゆっくりなため自然のバイパスである側副血行路が発達し、症状が出ないことが多いのです。

 だからといって、安心してはいけません。PADは同じ動脈硬化性疾患である虚血性心疾患や脳血管疾患を伴うことが多く、いったん発症すれば予後は悪く、重症ではがんよりも死亡率が高いといわれているのです。

 幸い症状なしの状態で病気が見つかった場合は、全身的動脈硬化症と血栓症を予防するための治療と生活習慣病の治療を同時に行います。具体的には「バイアスピリン」や「プラビックス」等の抗血小板薬を使用します。

 もし、症状が出れば、血管を広げたり血流を良くする「アンプラーグ」「オパルモン」「エパデール」等が症状を軽減するのに役立ちます。もちろん、抗血小板薬も必要です。

 このような投薬治療を行っても症状が改善しない時は、外科的治療が必要となります。その場合は「バイパス手術」と「血管内治療」の2通りの選択肢があります。

「バイパス手術」は人工血管や患者さん自身の血管を用いて血管をつなぎ合わせ、詰まった場所を迂回する別の道(バイパス)を作ります。

 しかし、今はよほど長くて複雑でない限り、血管内治療である経皮的動脈形成術(PTA)が一般的に行われます。先端に風船(バルーン)が付いたカテーテルを血管内に通し、狭くなっている部分でバルーンを広げ、動脈硬化部位を押しつぶして血管内腔を広げるのです。総腸骨動脈や大腿動脈ではステント治療を併せて行うことがほとんどです。これはステントという円柱形の網目状金属を、カテーテルを使って血管内に植え込みます。ステントを留置することで、血管を内側からしっかり支えて血管を広げます。

 ステント留置の血管形成術の成功率は平均で8割くらい。1年後の再狭窄率は総腸骨動脈で5~10%、大腿膝窩動脈では30%くらいです。最近の血管細胞の増殖を抑える薬剤溶出ステントでは、再狭窄は大腿膝窩動脈でも20%以下となってきています。