天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

採決後の処理をしていない生血は使用しない

順天堂大医学部の天野篤教授(C)日刊ゲンダイ

 合併症のリスクから、今はほとんど使われていない生血ですが、二十数年前は一般的でした。生血のおかげで救われた患者さんもいます。

 実は生血には「止血効果が高い」という特徴があります。我々の血液には血を止める凝固成分が含まれていますが、保存血では失活してしまいます。そのため、手術中に血が止まらなくなってしまった場合、止血凝固因子や血小板がたくさん含まれている血液製剤を取り寄せて成分輸血します。しかし、そうした製剤も生血の止血効果には及ばないのです。

 以前、生体反応によって手術中に血が止まらなくなってしまった患者さんがいた時、看護師や病院職員に一斉に連絡を入れ、適合する血液を採血して輸血に使ったことで一命を取り留めたケースがありました。また、自衛隊に連絡して30人の自衛隊員に病院まで来てもらい、採血した血液を放射線照射してから輸血に使ったこともあります。その時の患者さんは、特殊な薬剤の副作用で血が止まらなくなってしまったのですが、その輸血のおかげで手術開始から24時間後に血が止まり、事なきを得ました。

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天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。