介護の現場

職員だって老人に虐待されている

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 都内の特別養護老人ホームに勤務して3年目に入る福澤幸恵さん(仮名、52歳)は、介護報道に少し不満を抱いている。

「老人ホームなどで、職員が入居者の手を縛っているとか、暴力を振るうなど虐待をしたというニュースが時々、大きく報じられるでしょう。気持ちは理解できないこともありません。それもたしかに大きな問題なんですが、逆に老人から職員が虐待されるニュースはほとんど報じられることがありませんよね」

 福澤さんは40代で離婚し、専業主婦から再就職を求めて介護専門学校に2年間通学。介護福祉士の資格を取得して特養の職員になった。先輩たちから職務の厳しさを聞いてはいたが、現場は想像以上に大変だったという。

 勤務時間は8時間3交代になっているが、夜勤は夕方から翌日の朝9時まで及ぶことも少なくない。16時間連続勤務である。

「深夜、職員の休憩室で休みますが、眠ることはしません。呼び出しのブザーが鳴り、部屋や廊下に設置されているセンサーが人の動きを伝えてくるからです。物にぶつかってケガなどさせられませんから」

 廊下は走ってはいけない。急ぎ足で呼び出された部屋に向かうと、「遅いよ!」と怒鳴られ、手を噛まれたり、蹴飛ばされたこともある。一般の職業で、他人から噛まれたり蹴飛ばされるケースはほとんどないだろう。

「そのため、強制ではないと思いますが、性病や結核など感染症防止のために、入居者には健康診断書のほかに血液検査を義務付けているホームもありますね」

 生活にゆとりがある場合、相部屋ではなく個室を選択するケースがある。個室の料金は、ホームによっても違うが、福澤さんの施設ではだいたい1日8000円の加算だという。

 そうした入居者の家族からも、介護職員はしょっちゅう文句を言われる。

「入居者によっては、毎日のように面会に来る家族がいるのですが、その多くはなぜか実の娘さんたちです。そうした家族を見ていると、娘さんが育てられた家庭環境が分かるような気がします。逆に一年に1度か2度しか来ない冷たい家族もいて、そのような家族ほど文句が多いのです」

「部屋が汚れている!」「臭う!」「ちゃんと金を払っているんだ! しっかりやれよ」

 家族からそう文句を言われると、思わず「それなら自宅で介護しなさいよ!」と反論したくなる。が、口には出せず、グッと耐えるしかない。

 職員の職務のひとつに、24時間態勢のおむつ交換がある。入居者によっては、申し訳なさそうな顔を見せる人がいる。

「でも、入浴やおむつ交換で苦労するのは足が曲がったままの人ですね。少し動かすだけでも痛がりますから、時間が2倍かかります」

 介護の仕事はキツイ。それなのに、賃金は安い。福澤さんは言う。

「常時、職員が足りません。職員の賃金を上げなかったら、日本の介護制度は崩壊すると思いますよ」