従来の常識ガラリ 「進行肺がん」の生存期間延ばす最新治療

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 治りにくいがんの代表格が肺がんだ。厚労省の発表では、部位別がん死亡率第1位。第2位の胃がんの約1・5倍、第3位の大腸がんの2倍以上だ。治療の現状を和歌山県立医科大学呼吸器内科・腫瘍内科の山本信之教授に聞いた。

 肺がんはステージⅠの早期で見つかれば5年生存率80.5%だが、遠隔転移があるステージⅣ、つまり進行がんで見つかれば5年生存率は4.6%と1ケタ台まで落ちる。

■「抗がん剤、免疫療法は効かない」がこれまでの常識

 肺がんの圧倒的多数を占める非小細胞肺がんでは、手術が治療の第一選択になる。

「しかし、早期でも検査で見えない転移があり、手術だけではがんが治らない人が大勢います。また、発見された時点で手術の対象にならない人も多い。その場合は放射線治療になりますが、それだけでは不十分です」

 だから、抗がん剤治療が行われる。しかし、「非小細胞肺がんでは、抗がん剤の効果は乏しい」と山本教授は指摘する。

 ところが近年、肺がんで強力ながんを引き起こす遺伝子が見つかった。がん細胞の表面に刺激物質が付き、がんが増悪するシグナルが出る。

「シグナルの経路は1種類しかなく、それを抗がん剤で遮断すれば、がんの増殖を防ぎ、驚くほど小さくできる」

■驚くほど腫瘍が縮小

 つまり、「がん化遺伝子を持つがんを抗がん剤で狙う」。肺がん治療の中の大きなトピックのひとつだ。この治療での「抗がん剤」は、特定の遺伝子を持つがんに反応して作用するので、「分子標的薬」と呼ばれている。最近の研究で、非小細胞肺がんの半分以上がEGFR遺伝子の変異があることがわかっている。また、非小細胞肺がんの4%には、ALK遺伝子の転座(染色体の一部が切れて別の染色体に付着すること)がある。

「EGFR遺伝子変異がある場合、『ゲフィチニブ』などの分子標的薬を従来の抗がん剤と組み合わせることで生存期間が大きく延びました。日本でのゲフィチニブ承認前後の進行肺がんの生存期間の比較では、承認前が13.6カ月でしたが、承認後は27.2カ月になりました」

 ALK遺伝子転座には「クリゾチニブ」という分子標的薬があり、従来の抗がん剤治療に比べて、生存期間を2倍に延ばすという研究結果が出ている。これまでの“常識”がガラリと変わり、「効果の高い抗がん剤を選択し、十分投与することで生存期間が延長する可能性が高くなる」(山本教授)という。

 もうひとつのトピックは、「免疫チェックポイント阻害剤」だ。体にはがん細胞を攻撃する免疫細胞があるが、この働きを止める“ブレーキ”を外す薬を使った治療である。現在、肺がんへの承認が待たれている状態だ。

「これまで免疫療法は、がんを特異的に攻撃する免疫細胞を活性化させる、もしくはそれらを増やすことに主眼が置かれていましたが、肺がんに対しては効果がありませんでした。それは、“免疫細胞の働きを止めるブレーキ”に原因があった可能性があります」

 そのため、免疫チェックポイント阻害剤の効果は期待できる。実際、抗がん剤治療の後の再発肺がん患者に対して免疫チェックポイント阻害剤を使うと、生存期間が延びたことが報告されている。

「ただし、副作用もあるので慎重に使うことが重要です」

 肺がんは、残念ながら進行がんでは「完治」は難しい。しかし、“いい状態”で長生きできる選択肢が出てきたのだ。

▽非小細胞肺がんとは
 肺がんには、小細胞がんと非小細胞がんの2つの組織型がある。非小細胞がんはさらに扁平上皮がん、腺がん、大細胞がんに分かれ、扁平上皮がんは喫煙がリスクを上げ、それ以外は喫煙と必ずしも関係していない。

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