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【アテローム血栓症】 早期発見には循環器ドックが有用

東邦大学佐倉病院の東丸貴信教授
東邦大学佐倉病院の東丸貴信教授(C)日刊ゲンダイ

 動脈硬化という言葉はご存じでも、「アテローム血栓症」という重大な病気のことはそれほど認識されていません。これは、動脈硬化があるところに血栓が出来る疾患のことをいいます。

 アテロームとは、大動脈、手足の末梢動脈、脳動脈や冠動脈などの比較的太い動脈の内膜に出来るおかゆ状で脂肪性の沈着物のこと。コレステロール、カルシウム、線維性成分等からなり、「動脈硬化性プラーク」(粥状動脈硬化巣)とも呼ばれます。

 アテローム血栓症は、この動脈硬化性プラークの被膜が薄くなり、壊れて破裂したりして、そこに血栓ができる病態です。高血圧症、高脂血症、糖尿病、喫煙などのリスク因子があると、動脈硬化は数十年間かけて徐々に進行します。動脈は狭窄が進んで徐々に詰まる場合と軽い狭窄でも血栓が出来る場合があります。

 アテローム血栓症は世界でがんと並んで死因のトップを占め、日本でも、食生活の欧米化、運動不足、高齢化の進行とともに増加してきています。これまでは冠動脈疾患(CAD)、脳血管疾患(CVD)、末梢動脈疾患(PAD)などは別々の病気ととらえられてきました。しかし、最近は超音波や画像検査などの進歩で動脈硬化は全身の血管に進行していることがわかり、「全身性動脈硬化性疾患」(Polyvascular Disease)という概念が導入されました。

 動脈硬化のリスクやそれによる疾患がある7万人の患者を対象にした大規模研究(Reach Registry)では、CADの10・6%にPAD、25%に全身血管病、PADの51・6%にCADが合併していることが報告されています。その後の報告でも、ほぼ同様の比率で多くの動脈硬化性疾患患者が複数のアテローム血栓症を持っていることが確認されています。

 また、CADに対する予備的なカテーテル手術の検討においても、28%に下肢動脈、頚動脈、腎動脈、腹部大動脈に動脈硬化性疾患を合併していました。

 全身性動脈硬化性疾患において、CVDのみが発症した場合、1年後の心血管イベント(脳卒中、心筋梗塞など)発生率は9.87%で、CADのみは13.4%でした。しかし、CADが合併すると19.8%、PADが合併すると21.95%、3つが合わさると何と26.29%の発症率となりました。

 全身性動脈硬化性疾患の早期診断のためには、足関節上腕血圧比(ABI)検査、末梢動脈や頚動脈超音波検査、MRI(MRA)、造影CT検査などの機能診断と画像診断が重要ですが、確定診断は冠動脈などの血管造影検査で行います。

 全身性動脈硬化性疾患の早期診断は全身の動脈硬化性疾患を確認するだけでなく、将来の虚血イベント発症の最も有力な予測因子です。例えば、PADで5年後の心血重症虚血肢まで悪化するのはわずか5~10%、切断にまで至るのは2~3%にすぎません。しかし、その後の経過をみてみると、5年間で30%近くも死亡しています。これは心血管イベントのためです。

 動脈硬化性疾患患者のその後の経過を改善するためには、動脈や末梢動脈などの局所のカテーテル治療などに加え、他の血管疾患の早期診断治療も必要です。さらに全身の動脈硬化症の管理が重要になってきます。

 私たちの検討でも、動脈硬化リスク因子のコントロールと各疾患の早期診断と治療(抗血小板薬、血管内治療、手術)を併せて行えば、3年後の心血管イベントリスクは5%以下と予後は良好です。

 高血圧症などの生活習慣病がある人は、循環器ドックなどで全身性動脈硬化性疾患を早期発見することが大切です。その結果、70歳前後にとどまっている健康寿命を延ばすことが出来るのです。

東丸貴信

東丸貴信

東京大学医学部卒。東邦大学医療センター佐倉病院臨床生理・循環器センター教授、日赤医療センター循環器科部長などを歴任。血管内治療学会理事、心臓血管内視鏡学会理事、成人病学会理事、脈管学会評議員、世界心臓病会議部会長。日本循環器学会認定専門医、日本内科学会認定・指導医、日本脈管学会専門医、心臓血管内視鏡学会専門医。