耳鼻科の病気

「炭酸ガス」「半導体」レーザーの使い分け

 前回に続いて、花粉症の日帰り手術である鼻の「下甲介粘膜に対するレーザー治療(焼灼術)」の話です。

 今回は焼灼を表現する例えに「ステーキ」を使います。

 ステーキの焼き方には、よく焼いた方から「ウエルダン」(中まで火が通っている)、「ミディアム」(ウエルダンとレアの中間)、「レア」(生焼け)があります。

 レーザーによる焼灼にも、同じような表現が使われます。「炭酸ガスレーザー」による焼灼を「ウエルダン」、「半導体レーザー」による焼灼を「ミディアムレア(ミディアムとレアの中間)」と表現するのです。

 広く普及している炭酸ガスレーザーは、別名「光破壊型のレーザー」といわれ、粘膜を炭化させるほど強力に焼灼します。手術中の患者さんがよく「肉の焦げたような臭いがする」と言うのはそのせいでしょう。この手術法は耳鼻咽喉科の医師からとても信頼されています。

 効果が高いうえ、患部との距離がある非接触型のため清潔であり、装置の管理が簡単だからです。

 しかし、炭酸ガスレーザーは水を通り抜けない性質があるため、鼻水が強い方には不向きです。

 そのため、最近は半導体レーザーによる「ミディアムレア」で焼灼する治療が広まりつつあります。

 炭酸ガスレーザーと同様、鼻の下甲介粘膜を焼灼しますが、炭化させるほど強力に焼くのではなく、タンパク質の変成程度の照射ですませます。これで十分な結果が出ているとの報告があるためです。

 半導体レーザーは水を通るので、鼻水が出ていても手術が可能です。炭酸ガスのそれに比べて術後の痛みや痂皮(かひ)の形成が少ないとの報告がありますが、両方のレーザーを使い分けている私からすれば、炭酸ガスレーザーも術後の痛みや痂皮の形成は患者さんにストレスがないようで、術後の出血もほぼ大したことはありません。どちらとも術後の管理はあまり変わりがないようです。

 ただ、半導体レーザーはターゲットの粘膜に直接当たる接触型で、装置の管理が面倒という面が医療側にあります。

 私のクリニックでは、鼻水がぐずぐずの状態ではないスギ花粉の患者さんの場合、12月末までなら炭酸ガスレーザーでしっかり焼灼します。鼻水が出てくるシーズンになると半導体レーザーを使うようにしています。

大場俊彦

大場俊彦

慶應義塾大学大学院博士課程外科系終了。医学博士甲種日本耳鼻咽喉科学会認定専門医。日本レーザー医学会認定専門医。日本気管食道科学会認定専門医。米国耳鼻咽喉科・頭頸部外科学会フェロー。国際レーザー専門医。厚生労働省補聴器適合判定医・音声言語機能等判定医。日本耳鼻咽喉科学会騒音性難聴判定医・補聴器相談医。