介護の現場

入居者2人を24時間体制 いつ事故が起こるか内心ヒヤヒヤ

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

「介護職員が街頭に出て全国デモをするとか、施設で介護拒否でも起こさない限り、政府は動いてくれないのではないでしょうか」

 深刻な表情でこう語るのは、関東圏で特養老人ホームやグループホーム、NPO老人ホームなどを運営している事業主のAさんである。老人介護を対象にした介護事業に携わって約20年。本人も70歳を越え、長男や親族にいくつかの施設の理事長職を任せているが、いずれの施設も運営は綱渡りだ。

 介護福祉士やケアマネジャー(介護計画)、給食係など数十人の職員を抱えていても、土曜や日曜、祝日もない。

 介護は24時間体制のハードな業務。その点、病院と変わらない。だが、「寝たきり」といった高齢者の専門介護という責任が重い事業主は、365日、正月も休みがない。

 ベッドの上に残された山のような汚物を丹念に清掃し、排泄物にまみれた老人を風呂場に引率して洗ってあげる。引率する職員にも汚物と臭いが付きまとう。

 こうした日常の職務を黙々とこなす介護男女職員の平均年齢は、まだ育ち盛りの子どもがいる40代。それでいて支払える給料は20万円前後に過ぎない。

「正直、給料をもっと上げてあげたいと思っていますが、経営上、無理なんです」(Aさん)

 厚労省の統計によると、福祉施設の介護職員の全国平均月給は21万9700円(2014年)。22、23歳で一流企業に入社した大卒の初任給程度だろうか。全産業の平均月給、32万9600円に比べても11万円も低い。

 それでもこの4月から、介護職員の賃金が1万2000円引き上げられた。施設の改善などを条件に、国が支払う介護職員の人件費は784億円(1.65%)増えたことになるが、配分は法人の事業主に任せられており、職員一律1万2000円の値上げというわけにはいかない。どうしても介護福祉士など有資格者が重要視され、一般介護との間にバラツキが生じてしまうという。

 介護事業主に入る大ざっぱな金の流れを見ると、利用者(入居者)から介護保険料が国または地方自治体に入り、事業主にその9割が給付される。

 ほかに、利用者は事業主に直接、原則1割(一定の所得以上は2割)負担だ。

 一般の健康保険システムと似ているが、厚労省の資料によると現在、要介護者は約600万人。それに対して、介護職員はおよそ半数の300万人である。施設入居者の要介護者1人あたり24時間介護職員は3人が必要とされている。だが現状は、職員不足が常態化しており平均2人だ。もうギリギリの職員数である。

「介護職員に十分な休息を取ってもらうためには、私の各施設でもあと2、3人の職員が必要です。しかし、それは無理。この人手不足の負担は、ほかの職員が背負ってしまいます。毎年、高卒の職員を2、3人募集していますが、1年ともちません。給料が安い割には仕事がきついのでしょうね」

 いつか事故が起こるのではないか、Aさんは内心ヒヤヒヤしているという。