エイズを知る

<1>“アメ玉大”の薬を1日1回服用する最新治療

“不治の病”と恐れられたエイズだが、医学は進歩した。エイズウイルス(HIV)に感染しても、治療をきちんと受けていれば、セックスして自然妊娠し、相手にも子供にも感染させずに出産できる。その最新事情は――。

 5000人斬りの代償でHIVに感染したハリウッドスターのチャーリー・シーン(50)が、ゆすりを阻止する名目で病気を公表した根底には、感染者が生でセックスしても相手にうつす心配が少なくなってきたという事実があるのだろう。

 では、肝心の治療はどうやって行われるのか。

「必ずしも感染発覚後すぐに治療がスタートするわけではない」というのは、エイズ被害の大きいアフリカで患者を診察したことがある東京医科歯科大名誉教授の藤田紘一郎氏(感染症学)だ。

「HIV感染後、2週間ほどで40度前後の発熱、咽頭炎、リンパ節の腫れといったインフルエンザのような症状が表れます。その後はいったん症状が治まり、無症状期間になります。本格的にエイズを発症するのは、早くて3~4年、長ければ10年。その潜伏期間に、CD4といわれる免疫力を調べる指標を追跡しながら、タイミングを見て治療を行うのです」

 CD4は500以上が正常で、風邪やインフルエンザ、ヘルペス、淋病などいろいろな感染症にかかると、それに応じて数値が下がる。200を下回ると、エイズ発症のリスクが高まるため、300前後から治療を始めるという。

 実際、HIV感染者の3人に2人がこの段階から治療をスタートさせ、1カ月に1回くらいの頻度で通院して血液検査を受ける。発病の怖さと隣り合わせながら、通院の負担は少ない。最新の治療なら、1日1回1錠の薬を服用するだけだ。

「2年前に登場した『スタリビルド』という薬がそれです。もちろん、一生飲み続けることが必要ですが、きちんと服薬しながら治療を受けている人なら、寿命をほぼまっとうできる上、異性とのセックスで妊娠・出産もできます。1997年に登場した『多剤併用療法=ART療法』で、エイズは発病を食い止められるようになりました。ただ、当時の治療だと、服用する薬の種類は多くて20種類。服薬のタイミングもバラバラで、飲み忘れが多くなり、治療をやめてしまう人が少なからずいました。新薬の登場で、こうした離脱リスクは格段に減っています」(藤田氏)

 1日1錠の薬は、長径2センチ×短径1センチの楕円形。4種類の成分を配合しているため、一般的な飲み薬よりも大きい。アメ玉サイズを噛まずに飲み込むのはちょっとつらいが、治療には代えがたい。

 もっとも本当につらいのは、最適のタイミングで治療を始められなかった残りの3人に1人だ。

「潜伏期間中に感染を見つけられず、診断時にエイズを発病している、“いきなりエイズ”です。すぐ入院が必要ですが、対症療法。死を待つばかりです」(藤田氏)

 不運な少数派にならないためにも早期発見、早期治療に尽きる。保健所などでは、無料かつ匿名でエイズ検査を受けられるから、気になる人はすぐ受けて、後日、結果を聞きに行くことだ。