Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

【中村紘子さんのケース】 大腸がん メタボな食生活が引き金に

 体調が思わしくないのでしょうか。ピアニスト・中村紘子さん(71)が大腸がんのため療養しています。休養は当初、11月いっぱいで、12月5日にサントリーホールで公演される予定でしたが、「演奏活動中止期間を来年3月末まで延長する」と発表したのです。

 これまでの報道によると、大腸がんと診断されたのは昨年2月。腸閉塞で腹腔鏡治療を受けたところ、大腸がんとポリープが見つかったといわれています。そのときの病期はステージ2。それが事実なら、日本では手術が標準治療です。

 ところが、中村さんが選択されたのは抗がん剤治療。免疫療法や漢方療法、食事療法なども組み合わせていたようです。2泊3日の入院治療を4回受け、脱毛や吐き気などの副作用に苦しみながらも、ご主人の庄司薫さんのサポートを受けて、「ピアノを弾きたい」という一心でつらい治療を乗り越えていたことが週刊誌で語られました。

 それが功を奏したのか、今年3月からステージに上がり、6月には本格復帰を宣言。治療と並行して、月2~4回の演奏会を開いていくと報じられました。「完治するか、がんと共存していくか。先のことは分からないが、病気を楽しむくらいの気持ちでやっていきたい」と気丈に語っていたのが印象的です。

 それが一転、活動休止期間の延長ですから、病状が良くないことがうかがえます。詳しい病状は分かりませんが、読者の皆さんも注意するに越したことはありません。

 大腸がんは、数あるがんの中でも生活習慣病的な要因が強く、患者数が急増しているのです。今年の予測で、部位別がん患者数は約13万6000人でトップ。死亡数は、男性は約2万7000人で3位ですが、女性は約2万3000人で最悪。今後も患者数がさらに増えるとみられているのです。

 どんな生活習慣が影響しているかというと、いわゆるメタボに結びつくような食生活がよくありません。肉や揚げ物など高脂肪、高カロリーの食事です。アルコールの飲み過ぎもいけません。運動不足もリスクを高めます。

 50年前、映画「三丁目の夕日」に描かれたころは、干物などわずかなおかずでご飯をかき込むような食生活でした。炭水化物の摂取量が多く、脂質やタンパク質が少ない。それから50年、脂質の摂取量が増え、大腸がんの患者数は10倍に増えています。

 今年5月に大腸がんで亡くなった俳優・今井雅之さん(享年54)は、自衛隊仕込みのトレーニングで体を鍛え抜いていたそうですが、生前、元気なころは明け方まで飲み歩くことがしばしばあったとか。体形がメタボかどうかは関係ありません。

 逆に野菜や海藻などに含まれる食物繊維は、大腸がんを抑制することが知られています。肉や揚げ物などはほどほどが一番ですが、どうしても食べたいときは、野菜を食べてから。そうすると、食物繊維の働きにより、脂肪分の吸収が抑えられるのです。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。