健康は住まいがつくる

【床暖】併用で循環器疾患が原因の死者1.5万人減も

 これまで、高断熱住宅がもたらす“寒くない住環境”の健康効果を取り上げてきたが、もう少し詳しく見ていく必要がある。高断熱で冬の室温が改善されても、暖房の取り方しだいでは、天井と床付近では大きな温度差ができるからだ。

 実際、「断熱性の低い一般住宅」「高断熱住宅」「床暖房を導入している高断熱住宅」の3種類の家で、床に近い室温と家庭血圧の関係を調べたデータ(首都圏在住の男女137人)がある。

 まずは、一般住宅と高断熱住宅ではどれくらい温度に開きがあるのか。検証を行った慶応義塾大学理工学部・システムデザイン工学科の伊香賀俊治教授が言う。

「床からの高さが1.1メートル付近の室温が20度になるように暖房したとき、床から0・1メートルの室温が何度くらいになるかを比較しました。高断熱住宅の場合、同等もしくは低くても1~2度の差でした。ところが、一般住宅では足元の室温が5度前後低いことが分かったのです」

 では、高断熱住宅で床暖房にするとどうか。床から高さ1.1メートルと0.1メートルの温度差はほとんどなくなり、一般住宅の足元の室温と比較すると平均5.4度上昇することになるという。

「家庭血圧も測定したところ、床暖房で自宅の床付近の室温が5度高い家の人は、起床時の血圧が平均して約4㎜Hg低い傾向が見られました。高血圧治療ガイドラインによれば、高血圧の人の血圧が4㎜Hg低下すると、急性心筋梗塞や脳梗塞などの循環器疾患で亡くなる人が約1.5万人減少するとされています」

 床暖房にすると部屋ごとの温度差が少なくなるので、風呂場の脱衣所などで“ヒヤッ”として激しい血圧変動を起こす「ヒートショック」を防ぐことができる。脳や血管への負担が減らせるのだ。

 床暖房の健康効果の期待は他にもある。東京ガスの社内シンクタンク、「都市生活研究所」が行った床暖房利用者のアンケート調査では、「冷え性」(約80%)、「リウマチ痛」(約74%)、「腰痛」(約54%)がそれぞれ「和らいだ」という結果が出ている。

 エアコンなどの温風暖房と違って風を起こさないため、空気が乾燥しにくく、肌やのどにやさしい、ドライアイも起こさない。足元から天井まで温度がほぼ一定なので「頭がボーッ」としないのも利点だ。同研究所によると、温風暖房よりも集中力が高まり、記憶確認テストでも平均点が高いという。

 8畳部屋を1日8時間暖房した場合の床暖房のランニングコストは約135円。最新エアコンとホットカーペットの使用は約143円なので、むしろ安上がりだ。健康寿命を延ばしたければ、冬の住環境を高断熱+床暖房にすることだ。