「うつ病」の原因は感染症? 新説で治療はどう変わるのか

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 うつ病は、いまやがんや糖尿病などと並ぶ国民病。その患者数は100万人に迫る勢いだ。強いストレスにより、脳内の神経伝達物質の働きが鈍ることが原因のひとつとされる。ところが、セロトニンなどの神経伝達物質の働きを高める抗うつ薬を使っても、思うような成果が挙げられないこともあるのが現状だ。そんな中、「うつ病は頭の中のボヤ(炎症)が原因?」という新しい考え方が注目されているという。

■海外ではうつ病感染症説も

「うつ病に限らず、『こころの病気は体の炎症が関与している』という考え方は昔からあります。事実、がん、糖尿病、慢性関節リウマチ、心筋梗塞、帯状疱疹、風邪などになると、こころの不調を伴うことが多い。慢性炎症を引き起こすと考えられている、いわゆる『メタボリック症候群』も典型的です」

 こう言うのは、神経炎症仮説に基づく精神疾患の診断や治療法開発などが専門の佐賀大学精神医学講座の門司晃教授だ。

 実際、欧米では「感染症がうつ病の原因ではないか」との新しい考え方が浮上しているという。

 なぜ、体の炎症がこころの病気を引き起こすのか?

「通常、体に炎症が起きると、免疫系の細胞が動き出します。その代表は血液中にある白血球のひとつである単球ですが、通常は脳内に入ることはありません。脳内の免疫を主に担っているのは、単球と類似した起源を持つと考えられているミクログリアです」

 脳は1000億個もの「ニューロン」と呼ばれる神経細胞で構成されている。ミクログリアは脳内に侵入した細菌や腫瘍細胞を殺したり、脳内の老廃物を食べて清掃する働き(貪食能)がある。そのためのサイトカインやフリーラジカル(活性酸素)などを放出するが、それらが過剰になると逆に脳内の障害を引き起こしてしまう。

「この働きがいき過ぎると、正常なニューロンの働きを阻害し、ときに殺してしまうことがあります。まず、ニューロン同士の情報送信器(神経線維)が束になった白質が障害を受けます。白質の機能が弱まると、抑うつ、不安、幻覚、妄想などの精神症状が出現し、さらに進行するとニューロンそのものの減少(脳の萎縮)につながり、アルツハイマー病などの認知症に発展するとの考えもあるのです」

 つまり、うつ病や双極性障害といった「気分障害」や「不安障害」などは、脳の神経細胞が元に戻らないほど深刻なダメージを受ける手前の段階とも考えられるのだ。

 では、この新しい考え方に従うと、現在の抗うつ薬の代表的なターゲットであるセロトニンはうつ病には無関係なのか?

「そうではありません。脳内のミクログリアが放出する炎症性サイトカインは、セロトニンの原材料であるアミノ酸(トリプトファン)の代謝をセロトニンが作られない方向に誘導します。さらに、セロトニンの再取り込みを行うセロトニントランスポーターの働きを活発にするため、脳内のセロトニンが不足してうつ症状が生じやすくなるのです」

 つまり、炎症がセロトニン不足を誘導し、うつ病の引き金になるという。

 この「うつ病炎症説」が正しいとすると、具体的にうつ病の治療はどう変わるのか?

「炎症を抑えるため、従来の向精神薬に加え、解熱鎮痛剤や慢性関節リウマチ治療などに使われる生物学的製剤などが積極的に使われるようになるかもしれません。実際、慢性関節リウマチ治療などに使われる生物学的製剤を抗うつ薬と併用し、治療困難なうつ病(難治性うつ病)が改善したとの研究結果が海外で報告されています」

 謎の多いこころの病気が解明され、うつ病が根治できる日は確実に近づいている。

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