医療数字のカラクリ

進行がんの余命は死刑囚の執行日予測と同じくらい難しい

 生存率にまつわる数字のカラクリを長々とみてきましたが、これまでのポイントを一度まとめておきましょう。

 生存率を平均値だろうが、中央値だろうが、90パーセンタイルで表そうが、どれも自分に当てはまるかどうかわからない「代表値」に過ぎません。

 中央値のような真ん中あたりの値は、大部分の人に当てはまりそうな気がしますが、実はほとんどの人には当てはまりません。大部分の患者の生存期間は平均値より短いか長いかのどちらかで、中央値ぴったりという人はむしろ少ないのです。

 ここで思い出すのは死刑囚のことです。死刑囚は、自分の刑執行の日をその日の朝まで告げられないそうです。「そんなかわいそうな」と思われるかもしれません。しかし、生存曲線が示すものもまさに同じで、死期が近い進行がんの人ですらその日がいつなのかは、ほとんどわからないのです。

 わかるのはあくまでも全体の確率だけです。その意味では、進行がんの人は、刑執行の日をその日の朝に知らされる死刑囚より、さらに不確定な状況に置かれています。すなわち、死ぬその日の朝になっても死期を知らされないわけです。

 そう考えると、中央値の意味を正しく理解するというのも困ったことかもしれません。「生存期間の中央値が6カ月です」と聞いた時に、6カ月くらいは生きられるんだと誤解したほうがまだましで、「自分は明日死ぬかもしれない」と正しく考えられると、かえって不安が大きくなるかもしれないからです。数字に強くなると、その日の朝になっても執行の日を聞かされない死刑囚のようなものかもしれません。難しいものです。

名郷直樹

名郷直樹

「武蔵国分寺公園クリニック」院長、「CMECジャーナルクラブ」編集長。自治医大卒。東大薬学部非常勤講師、東大医学教育国際協力研究センター学外客員研究員。臨床研究適正評価教育機構理事。著書に「検診や治療に疑問を感じている方! 医療の現実、教えますから広めてください!!」(ライフサイエンス出版)、「逆説の長寿力21ヵ条 ―幸せな最期の迎え方」(さくら舎)ほか。