どうなる! 日本の医療

数百億円の負債を抱えて…都内の私大病院が「倒産」する日

東京が医療難民であふれかえる恐れ

 多くの大学病院が集まり、トップクラスにある東京の医療に「崩壊の足音」が近づいているという。東大医科学研究所の上昌広特任教授らが会計事務所とタッグを組み、都内の私大病院の公表財務指標を調査したところ、驚くべき実態が浮かび上がった。

 私立「日本医大」では2014年度で赤字は158億円、有利子負債は600億円。財務レバレッジは349%の大幅借金超過で倒産寸前だという。同様に「東京女子医大」、神奈川の「聖マリアンナ医大」「北里大」も大幅な赤字で、経営が圧迫されているという。上教授がその背景をこう指摘する。

「来年度の診療報酬が8年ぶりにマイナス改定が予測される中、国の補助金に全額を依存できない私大系の大学病院を中心に、崩壊の恐れが出始めています。その最大の理由は高騰する人件費です。病院経営の5~6割を占める人件費のうち、特に看護師の人件費の高騰がネックになっています。医療機関の利益率は数%しかありませんが、看護師の人件費は右肩上がりです。多くの看護師がいなければ成り立たない病院は、経営が圧迫され続けているのです」

 全国一律の診療報酬額の中で診療報酬が抑制され、利幅が薄くなれば、人件費が全国一高い東京都の病院から最もダメージが表れ始める。東京都の看護師の平均収入は523万円で、全国の平均473万円より1割ほど高いという。九州と関東地方を比較すると、その格差は2割となる。

 首都圏の看護師の人件費が高くなっている理由は、病院数が多く、施設基準を満たすためには看護師を奪い合うしかないからだ。

 そもそも、看護師の養成数が少な過ぎる。例えば人口10万人あたりの理想的な看護師数は727人。これを満たすには、1学年あたりの看護師養成数をあと5000人増やさなければならないという。これは無理な話だ。結局、慢性的な看護師不足の中で看護師の奪い合いが起こり、人件費がどんどん高くなっているのだ。

 このしわ寄せが、研究費にカネがかかる、特に私大医科大学の経営に重くのしかかっているという。

 上教授によると、仮に今のままでいけば、2016年中にどこか都内の私大大学病院で「人件費倒産」が起こっても不思議ではないという。私大総合大学病院が倒産するとどうなるのか。

「お金持ちはともかく、庶民の救急医療がままならなくなり、病院のたらい回し、さらには数が少ない産科、小児科などを中心に、医療難民が多数発生することが考えられます」

 13の大学医学部がある東京が医療難民であふれかえる。オリンピックなどと浮かれている場合ではないのだ。

村吉健

村吉健

地方紙新聞社記者を経てフリーに転身。取材を通じて永田町・霞が関に厚い人脈を築く。当初は主に政治分野の取材が多かったが歴代厚労相取材などを経て、医療分野にも造詣を深める。医療では個々の病気治療法や病院取材も数多く執筆しているが、それ以上に今の現代日本の医療制度問題や医療システム内の問題点などにも鋭く切り込む。現在、夕刊紙、週刊誌、月刊誌などで活躍中。