“痛み”にも種類がある 知っておきたい「慢性痛」の新概念

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 膝痛、腰痛をはじめ、年を取れば「慢性痛」と無縁ではいられない。最近、慢性痛に対する薬の治療が変わってきた。日本大学医学部麻酔科学系麻酔科学分野・加藤実診療教授(ペインクリニック専門医)に聞いた。

 これまで「痛み治療」といえば、アスピリンやロキソニンをはじめとする「非ステロイド性抗炎症薬=NSAIDs(エヌセイズ)」が使われてきた。その名の通り、炎症を抑える薬だ。

 通常、炎症は1週間から10日ほどで治る。この期間NSAIDsを服用する。しかし、「医師に処方された痛み止めの薬を飲んでも、痛みが消えなかった。その後も痛みが続いた」という経験の持ち主も多いのではないだろうか。それは、痛みには種類があることを、医師も患者も認識していなかったからだ。

「身体的な痛みには、侵害受容性と神経障害性の2種類があります」

 たとえば、膝をぶつけてケガをした場合、患部では激しい炎症を起こしていて、痛みの信号が脊髄を通って脳に送られる。これが、身近でだれもが経験したことのある「侵害受容性の痛み」だ。

 一方、脊柱管狭窄症と診断され、慢性的な腰下肢痛が続いている。画像検査では手術が必要な所見はなく、血液検査でも炎症が確認されない。しかし、痛みが楽にならない場合に疑う必要があるのが「神経障害性の痛み」だ。

「この場合の痛みは、圧迫された神経からの痛み信号が、脊髄に入った段階で増幅され、強い痛み信号として脳に送られて感じることになる」

 侵害受容性の痛みは、いわば患部で火事が起こっているようなもの。火事を鎮める抗炎症薬、すなわち従来の痛み治療で使われてきたNSAIDsが効果を発揮する。ところが、神経障害性の痛みは、神経の障害をきっかけに、炎症や精神的な問題とは関係なく神経自体が過敏になってしまい、痛みを感じやすい状態になっているのが特徴だ。

「そのため、過敏な神経の状態を正常な状態に戻す薬が必要です。この治療に関するガイドラインでは、第1選択としてプレガバリンやアミトリプチリン、第2選択ではノイロトロピン、第3選択では弱オピオイド鎮痛薬(トラマドール)やモルヒネが推奨されています。着目する点は、通常の痛み止めであるNSAIDsは治療薬に入っていないことです」

■新概念を知らない医師も

 侵害受容性か神経障害性かは、ある程度は見分けがつく。

「痛みの性質が違います。侵害受容性は、ズキズキ、重苦しいなどの痛み。神経障害性は、ヒリヒリ、ピリピリ、ビリビリ、電気が走るような痛みです」

 神経障害性の痛みに分類される疾患には、帯状疱疹後神経痛、糖尿病性神経症、外傷後神経痛、術後慢性疼痛、脊柱管狭窄症に伴う脊髄症、放射線治療後の神経障害などがある。

「痛みに種類があることは最近分かってきました。そのため、神経障害性の痛みに関する病気や選択する薬物の違いに精通している診療科、医師はまだまだ限られています。もし、現在、受けている痛みの治療で効果が見られない場合は、『神経障害性の痛みではないか?』と患者側から医師に伝えるのもひとつの手でしょう」

 痛みが続くことを、安易に精神的な問題と片付けてしまう――。このようなことがないように、医師も患者も痛みの種類を意識して、適切な薬物を選択する。それが痛みの軽減と日常生活の改善につながる。

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